通勤不要になった人が失う自分と会社の一体感 テレワーク浸透で帰属意識や居場所が希薄に

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一部の会社は、優秀な人材の流出を防ごうと、精神衛生上のケアなどに力点を置き、オンラインの状況下でもチームワークやモチベーションを確保できるよう、共食や雑談といったレクリエーションの時間、専門家などの相談窓口の拡充といった、あの手この手の方策を繰り出している。だが、長い目で見ると、会社にとっても社員にとっても、もはや帰属感や居場所感は、別のいくつかのコミュニティーに分散させておいたほうが賢明だ。

人生100年時代の働き方のオピニオンとして有名な経営学者のリンダ・グラットンは、3種類の人的ネットワークが必要だと主張した。関心分野を共有する少人数のブレーン集団である「ポッセ」、多様なアイデアの源となる「ビッグアイデア・クラウド」、安らぎと活力を与えてくれる現実世界の友人などで構成される「自己再生のコミュニティ」──この3つを意識的に築く努力をしなくてはならないという(『ワーク・シフト 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図』池村千秋訳、プレジデント社)。これは、従来「斜めの関係」と呼ばれていたものに近い。

コロナ禍によるテレワークのさらなる普及、長期的な施行によって、「社会的なアイデンティティー」や帰属意識について、見直しの動きが加速するのは必至である。「こんなくだらない職場に囚われていたのか」というふうに、自らの境遇にスポットが当たり、社畜的な思考の温床といえるいびつな「支配と依存の関係」に気づいた人もいれば、社会という「場」に過剰にコミュニティー的なつながりや憩いの機能を求めていた自分に気づいた人もいたことだろう。

個々人にとっては再考の機会

経営者やマネジメント層の視点から見れば、社員を大事にしない会社だとみなされれば優秀な人材が流出することになり、「場所性と直接性」が最後の歯止めだった古い体質の会社からも退職者が続出する事態につながりかねない。しかしこれは、個々人にとっては再考の機会であり、必ずしも悪い話ではない。

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いずれにしても、わたしたちは、(帰属によって精神的な充足を得られる)「安住の地」を渇望しつつ、それが「監獄」と化してしまう懸念との間で揺れながら、アイデンティティーの不安定さという問題と向き合うことを避けられない。

このような考え方を踏まえれば、コロナ禍は、いわば「何者かでありたい」「何者かであろう」と欲するアイデンティティーの〝毒〟を、図らずも中和するような局面をもたらす福音といえるかもしれない。

真鍋 厚 評論家、著述家

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まなべ・あつし / Atsushi Manabe

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。 単著に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)。(写真撮影:長谷部ナオキチ)

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