「大規模無低」に苦しめられた49歳男性の憤怒 支給の生活保護費を封筒ごと取り上げられた

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彼らの主張を理解できないわけではない。相手が家族や親しい知人であれば、私もそうした文句の1つも言うかもしれない。しかし匿名とはいえ、ネットのSNSは社会的な空間でもある。

考えるべきなのは、ひとり親世帯の貧困率の高さや、離婚した父親から養育費を受け取っている母子世帯の少なさ、生活保護水準以下の賃金しか払わない会社が野放しにされている現実である。公的空間に“お茶の間談義”をそのまま持ち込む作法には違和感しかない。

ニュースも読まないし、選挙にも行かない

オサムさんの半生をみても、仮に怒りをぶつけるのだとすれば、その矛先は不安定な派遣という働き方を増やし続けた雇用政策や、同一労働同一賃金の適用という法改正の趣旨を無視して派遣労働者のクビを切る派遣会社に向けるべきなのではないか。

こうした疑問を投げかけると、それまで饒舌だったオサムさんは途端に口数が少なくなった。そして「批判したつもりはなかったんです」と繰り返した。

オサムさんはネットのニュースも読まないし、長い間選挙にも行っていない。だから、労働関連法の規制緩和の経緯も、オサムさんを雇い止めにした会社の思惑についても知らなかったのだという。

オサムさんが長年はまっているのは、お気に入りのYouTuberの動画を見ること。お勧めのYouTuberはラファエルやヒカル、宮迫博之などだと教えてくれた。

取材の後半は、オサムさんが面白かったという動画について語り続けた。ラファエルがクレジットカードの限度額に挑戦するために1億円の時計を買ったこと、ヒカルと宮迫が靴通販サイトなどを運営する会社のCMにそろって出演したこと――。

私の知らない話題は興味深くもあった。でも、なぜ貧困に苦しむ人をバッシングするのかという問いへの答えはついに聞くことはできなかった。 

藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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