禁断の財源に頼るのか 民主党“暴走”の懸念

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 民主党の財源捻出のもう一つの車輪である埋蔵金も明らかに限界だ。埋蔵金とは、国の一般会計とは別にある21の特別会計の積立金や剰余金のこと。事業仕分けが不調に終わった10年度予算では、埋蔵金が“活躍”し、税外収入は過去最大の10・6兆円に上った。だが無理やり絞り出したため、今や特別会計は異常事態に陥っている。

たとえば最も活用された財投特会は、10年度予算では積立金の残高の全額(3・4兆円)と剰余金全額(1・4兆円)が埋蔵金として召し上げられる。その結果、政令で積み立てを定められている金利変動準備金がゼロとなり、将来の金利変動による損失で債務超過に陥る危険にさらされることになる。

外国為替資金特別会計も事情は同じ。この特会は全額政府の借金で調達し、為替介入に必要な資金を管理するもので、本来なら過分の剰余金は借金返済に充てられるべきだ。しかし、10年度予算では09年度の剰余金全額(2・5兆円)に加え、何と先食い的に10年度の剰余金も埋蔵金に取られる(同特会の積立金は現在、円高による多額の為替評価損で取り崩し困難)。埋蔵金の主力資金源である両特会は、かくもスッカラカンだ。

にもかかわらず、菅財務相が「埋蔵金」の3文字を繰り返すのはなぜか。ここに来て霞が関でささやかれるのが、130兆円近い年金特別会計の積立金だ。これは文字どおり国民が公的年金の社会保険料で積み立ててきた財産で、将来の年金給付に充てるもの。自民党政権でもこの積立金に手を付けたことはない。

厚生労働省は「11年度以降の国庫負担財源について、今のところ具体的な考えはない」(年金局年金課)と言う。しかし、窮地に追い込まれた民主党政権が「基礎年金の国庫負担に年金積立金を使うなら理解は得られやすい」となし崩し的に動く可能性は否定できまい。増税なき民主党政権の暴走が、臨界点を超えるかもしれない。
(野村明弘 =週刊東洋経済 撮影:今井康一)

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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