40歳男性が自由が丘で営業「ヒオアイス」の正体 ピスタチオはクラウドファンディングで実現
売り上げ等の数字は公表できないとのことだが、例えばECの2020年5月の売り上げは2019年の同月比の3倍に成長。さらに2020年4月からは流通へと手を広げ、コンビニのナチュラルローソンと生鮮食品通販のオイシックスで販売を始めたという。
「創業からの1年はファンづくりの時期でした。これからはより多くの消費者に届けられるように、流通チャネル等を通じてタッチポイントを広げていきたいと思っています。店とECサイト、流通チャネルが互いにいい意味で影響し合って、相乗効果が生まれればと考えています」(西尾氏)
これまでの企業では考えられないような、新しい取り組みにもチャレンジしている。同社ではそれまで、西尾氏が訪ねた生産者の素材を扱うことを大切にしており、そのために、外国産の素材・ピスタチオを使ったフレーバーを作ることができなかった。そこで、新しい素材の調達資金を、クラウドファンディングで募ったのだ。
プロジェクトの実施期間は2019年8月6日〜9月26日。目標金額50万円を大きく超える144万8000円を達成した。西尾氏がイタリアのシチリア島、ブロンテ村にある農家を訪ね、仕入れたピスタチオでつくられたアイスクリームは、200人以上のサポーターへのリターン品として活用された。
「私が農家を実際に訪ねて、作業を一緒に行うなど産地の中に入ってやってきたのは、やはり知らないことが多かったから。日本にはない素材を買い付けるにも、同じようにしなければと思いました。ただし、資金がかかることであり、価格も倍近くになってしまいます。その時点では、買ってくださるお客様の数も見えませんでしたので、実際どこまで価値を感じていただけるか、確認を兼ねてクラウドファンディングで挑戦してみました」(西尾氏)
企業であれば、利益を追求するために投資するのは当たり前。資金がなく融資も得られないならば挑戦もできないというのが、これまでの常識だった。その判断を、SNSのサポーターや、得意客の価値観に委ねたところが、非常に新しい。
しかし同社が消費者に提供しているのは、「アイスクリーム」という品物ではなく、生産者の思いや、循環型社会を目指す取り組み、大切な人と食べるひととき、という価値である。そう考えると、応援者に価値判断を求めるのは、誠に理にかなったことにも思える。
シチリア島のピスタチオの収穫期は2年に1回のため、次に発売するとすれば、2021年9月末だそうだ。ある程度高値になってしまうことが予想されるため、買い付け予約の形で発売する予定だ。
スイーツ作りにおける乳製品の価値の再構築を目指す
西尾氏の挑戦はアイスクリーム以外にも広がっている。
非常に濃厚なバターを使ったシングルオリジンのバターケーキ、「Butters」だ。原料のミルクは、ジャージー牛の原種から得たもの。イギリスのジャージー島で約150年間、交雑しないように血統管理され、現在わずか3000頭しか飼育されていないという。
「素材を限定することで味や風味の特徴を出し、スイーツ作りにおける乳製品の価値を再構築することを目指しています。お客様との対話をしながら、少量ずつのマイクロパッチで作り、穏やかな成長を目指していければと考えています」(西尾氏)
確かに、乳製品は多くのお菓子のメイン素材として使われる。この牛乳の価値を変えていくことができれば、スイーツの見方がガラリと変わっていく可能性がある。そして最近、バター菓子や生クリーム専門のブランドが頭角を現している現状を見ると、案外、多くのものづくりの担い手たちが、そのことに気づいているのかもしれない。
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