コチドリの最期は時にあっけないがゆえに尊い 天敵を巣から遠ざけるため自らがおとりになる

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コチドリたちの親は何を思って行動しているのか(写真:ふくろう/PIXTA)
生きものたちは、晩年をどう生き、どのようにこの世を去るのだろう──。
土の中から地上に出たものの羽化できなかったセミ、大回遊の末に丼にたどりついたシラスなど生きものたちの奮闘と哀切を描いた『生き物の死にざま はかない命の物語』から、コチドリの章を抜粋する。

天敵が巣に近づくと親鳥が飛び出しておとりに

地面に立つコチドリが翼をだらりと下げ、翼を引きずるようなしぐさをしている。

近づけば、翼をだらりと下げたまま、なんとか逃れようとする。

追いかければ、コチドリもこちらのようすをうかがいながら、少しずつ少しずつ逃げていく。

ところが、しばらく翼を引きずりながら移動していたかと思うと、いきなり飛び立ってしまった。

じつは、この鳥はケガをしていたわけではない。ケガをしているふりをしていたのである。これは「擬傷(ぎしょう)」と呼ばれるコチドリの仲間に見られる行動である。

コチドリは、スズメより一回り大きな体の鳥で、砂浜や河原などに生息している。砂浜や河原は大きな木が少なく、木の上のような安全なところに巣を作ることができないので、砂地の中に巣を作らざるをえない。そのため、巣とはいっても、砂地にくぼみを作っただけの粗末なものだ。大きな木も、岩もなく、見通しがよく隠れることのできない環境でヒナを育てなければならないのである。

親鳥は敵が巣に接近すると、警戒の声を上げる。すると、ヒナはじっと息を潜(ひそ)めて動かなくなる。ヒナにできることは、ただただじっとして、敵に見つからないようにすることだけなのだ。

広い砂地のどこかで、コチドリのヒナがじっと息を潜めているに違いない。

イタチやヘビなどの天敵が巣に近づくと、親鳥は天敵の前に飛び出して、この擬傷を行う。

そして、傷ついて飛べないふりをしながら、敵の注意を引き、おとりとなって敵を巣から遠ざけるのである。

自らの危険を顧(かえり)みることなく、子どもたちの命を必死で守ろうとするのである。

人間であれば、感動的な親子愛のドラマということになるだろう。

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