コチドリの最期は時にあっけないがゆえに尊い 天敵を巣から遠ざけるため自らがおとりになる

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実際に敵につかまって命を落とす親鳥もいることだろう。

敵を見つけて、鳴き声でヒナに警戒をうながした親鳥は、声を上げながら敵の前に躍り出て敵の注意を引くと、地面にかがみ込んで、大きく広げた翼を引きずりながらバタバタと震わせて見せるのである。

敵が近づけば、親鳥は向きを変え、ゆっくりと敵から離れていく。敵に襲われないように、一定の距離を保っているのだ。敵のようすを慎重にうかがいつつ、敵が近づけば、遠ざかり、敵が来なければ、必死に翼を震わせて敵をおびき寄せる。

少しずつ、少しずつ、親鳥は敵から離れていく。そして、敵を巣から遠ざけるのだ。少しずつ、少しずつ。もう少し、もう少し。あともう少しだけ巣から離れれば、親鳥はパッと飛び立って敵から逃げるのだ。

しかし、今回は敵の方が上手(うわて)だったようだ。

一瞬速くイタチが襲いかかり、親鳥の首元に食らいついた。と言うが早いか、親鳥をくわえたままイタチは、走り去っていった。

それで、おしまいである。

コチドリたちの親の行動は単なる本能なのか?

コチドリは必死にヒナを育ててきた。

必死に敵に立ち向かった。

そんなドラマも、終わりはあまりにあっけない。

残されたヒナたちは、その後どうなるのだろう。

実際のところ、コチドリの寿命はよくわかっていない。

厳しい環境で生きるコチドリは、寿命を全うするということがほとんどできないのだ。

『生き物の死にざま はかない命の物語』(草思社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

多くのコチドリたちが、こうしてあっけなく命を落としていく。

コチドリたちは、命をかけて子どもを守る。それがコチドリの子育てである。

子どものためには、自分の命は惜しくない。それがコチドリの親なのだ。

コチドリたちの親の行動は、単なる本能にすぎないのだろうか。

それを本能だと言ってしまえば、そうなのかもしれない。

しかし、本能でないと言えば、それが真実かもしれないのだ。

稲垣 栄洋 静岡大学農学部教授

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いながき ひでひろ / Hidehiro Inagaki

1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院修了。専門は雑草生態学。農学博士。自称、みちくさ研究家。農林水産省、静岡県農林技術研究所などを経て、現在、静岡大学大学院教授。『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『都会の雑草、発見と楽しみ方』 (朝日新書)、『雑草に学ぶ「ルデラル」な生き方』(亜紀書房)など著書50冊以上。

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