会社組織をダメにする「中途半端なテレワーク」 現場任せの対応が「出社の同調圧力」生み出す

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もう1つのバッドシナリオは、「最後まで出社しないのは誰か」ということに関わる。先述したような不安感をいだきながらも在宅テレワークを続ける、つまり相対的に剥奪感を抱き続けるのは、「子持ちの女性」だと筆者は予想している。

調査においても、「働きながらの子供の世話」の負担は男女で言えば女性の側に大きく偏っており、さらに4月よりも5月のほうがそうした負担感が強まっていた。テレワークの継続希望率が全体で69.4%だったところ、未就学児を持った女性では8割を超える。

保育・教育機関がまだ完全に機能していない中で、多くの共働き家庭では、「男性」から出社していくことが予想される。このままでは、テレワークという働き方が、性役割分業を「強化」するような効果を持ってしまいかねない。

バッドシナリオを避けるために

バッドシナリオを避けるためにまず必要なのは、企業・組織単位での「ポリシーの明確化」だ。多くの企業では、自主的な判断や現場判断で出社が「なし崩し」的に開始され始めているが、これらは「まだらテレワーク」の状態において同調圧力を発生させてしまう。

残念ながら、多くのマネジャーや経営者、人事部に至っても、オールド・ノーマルに引き寄せられるように「なし崩し」的に出社し始めている。

そこで、「出社率は全体で○割以下にする」「個々人は月に〇%以上は在宅勤務にする」といった目標設定や、組織ごとの交代制出社など、全体としての最適バランスをみながらきちんと明示すべきだ。新型コロナウイルスの感染者数の推移はまだ不安定であり、「なし崩し」ではない組織としての共通認識を作りたい。

同時に、テレワーカーが少なくなるほどに、個別への「点」のケアが必要になる。組織の中で出社組が多くなればなるほど、テレワーカーの問題は「小さな」問題になってしまいがちだが、上述したように、「少ないからこそ」のケアが必要だ。上司は自組織において「出社したくてもできないのは誰か」「どのくらい負担がかかっているのか」を個別に気にかける必要があるし、評価やキャリアへの不安感を取り除くような、公平な視線をもったコミュニケーションが必要だ。

筆者が見る限りでは、こうした「まだらテレワーク」と「一斉在宅」の課題の違いを意識している組織は少ないように思う。コロナ禍は、これまでのマネジメントや組織のあり方に疑問を呈し、問いなおすよう促す。各企業、組織、個人が新たな状況に創意工夫をこらさねばならない期間はまだまだ続く。

小林 祐児 パーソル総合研究所 上席主任研究員

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こばやし ゆうじ / Yuji Kobayashi

上智大学大学院総合人間科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。NHK 放送文化研究所に勤務後、マーケティングリサーチ・ファームを経てパーソル総合研究所に入社。専門は理論社会学・人的資源管理論・社会調査論。テレビ・ラジオ出演・各種新聞などへの寄稿多数。主要著作に『残業学──明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?』(光文社、共著)『会社人生を後悔しない 40代からの仕事術』(ダイヤモンド社、共著)など。

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