香港の若者が「自分は中国人じゃない」と思う訳 国家安全法で秩序が戻っても人心は離れたまま

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燃えるバリケードと対峙する香港警察の機動隊(写真は2019年9月、記者撮影)

国家安全法はさっそく牙をむいた。7月1日には違法集会などの容疑で約370人の逮捕者が出ており、そのうち国家安全法に違反した疑いで10人の男女が逮捕された。

うち1人の男性の逮捕理由は「香港独立」と書かれた旗を隠し持っていたことだ。香港警察は荷物検査まで実施して検挙。フェイスブックの公式アカウントに証拠品となる押収した旗の写真と併せて逮捕にいたった状況を公開し、国家安全法はすでに施行され、国家分裂などの行為が犯罪になると改めて警告した。

「もう抗議活動に参加する勇気がない」

1日の抗議活動に参加していた大学生、ジミーさん(仮名)は「まさかさっそく国家安全法を適用するとは」と驚きを隠せなかった。その日は帰宅後すぐに香港独立に関連しそうなグッズやビラを慌てて壊したり、シュレッダーにかけたりして処分したという。「もう抗議活動に参加する勇気がない」と7月2日は抗議に参加しなかった。

高校生のデニスさんも「デモに参加するか迷い始めた」と逡巡する。彼の両親は香港政府に勤める公務員。1年前からデモへの参加を両親に止められ続けていたが、「捕まってもいい」とそれを無視していた。そんな彼が躊躇するようになったのは「国家分裂や政権転覆の罪で捕まると両親が仕事を失うのではないか」と不安になったからだ。

国家安全法の威力が出始める中、取材に応じた香港の青年たちはそれでも「表面上抗議しなくなっても、絶対にあきらめたくない」と口を揃える。「私は香港人、中国人が勝手に香港のことを決めて変えてしまうのは許せない」とエイミーさんは話す。

エイミーさんが口にした「香港人」と「中国人」のアイデンティティの違いは世論調査にも表れている。世論調査機関、香港民意研究所の調査によれば2020年6月時点で自らを「香港人」と捉える香港市民は50.5%と中国人と考える12.6%を大きく上回った。18~29歳に限ると81%が「香港人」と答えた。

(外部配信先ではグラフを全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

香港の中国返還後のアイデンティティ調査で一貫して「香港人」の回答が多数だったわけではない。2008年6月の調査では「中国人」と答えた割合が38.6%に対し、「香港人」が18.1%と少数だった時期もある。2000年代は中国による香港への投資や観光客送り出しという経済のテコ入れ策、2008年の北京オリンピックによる国威発揚が影響したと考えられる。

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