「出身大学が同じだったので、最初から親近感がわいていました。あと、不思議と毎日LINEをしても苦痛じゃなかった。何往復もするのではなく、1日1~2往復程度で、“今日は天気がいいね”とか“コロナの感染者がまた増えたね“とか、たわいもない会話だったんですけど、楽しかった」
うまくいくカップルは、毎日のLINEのやり取りがごく自然にできている。「毎日何を話せばいいのかわからない」とか「やり取りが苦痛になってきた」と思った時点で、相手との波長が合っていないし、好意的な気持ちが育っていないのだ。
また、悟はこんなことも言った。
「相談所で婚活を始める前、34歳のときに、10カ月くらい付き合った女性がいたんです。外資系の会社で働くバリキャリだったのですが、彼女が知っていることを僕が知らないと、『なんでそんなことも知らないの?』と、上から目線の物言いをしてきた。実力の世界で結果を出していく仕事をしていたからなのか、いつも僕と張り合っている感じで、一緒にいて落ち着けなかった」
そこが美咲は違っていた。2人が卒業した大学は、日本でもトップレベルであり、彼女は有名企業の総合職。相当優秀な女性のはずなのだが……。
「しゃべる物腰も優しいし雰囲気が柔らかくて、一緒にいると癒やされた。何より僕がカッコつけることなく、自然体でいられたんですよね」
会えない時間に募らせた思い
真剣交際に入ってからも、週末は必ず会ってデートを繰り返していた。しかし、4月に入ると緊急事態宣言が発出。不要不急の外出の自粛、3密を避けるなど、感染拡大を回避することが呼びかけられ、多くの会社がリモートワークを取り入れ、世の中の動きが一気に止まった。
「外出してお互いに感染者になったら、家族にも会社にも迷惑をかけてしまうので、週に1回のデートも取りやめにしました。それでも顔が見たかったので、LINEビデオでやり取りをするようになりました」
緊急事態宣言によって、明暗を分けたカップルは多い。発出される前にしっかりと関係を築けていたカップルは、会えない時間に相手をより恋しく思うようになった。付き合いだしたばかりでまだ十分に関係性を築くことができなかったカップルは、会えないことで気持ちがすれ違っていった。
悟と美咲は前者で、LINEビデオでやり取りしながらも、リアルに会いたいという思いを募らせていった。
「会えなくなって3週間が経った頃、どうしても会いたくなって、僕が運転する車で郊外の山にドライブに行くことにしました。彼女の家まで迎えに行き、彼女が車に乗り込んできた瞬間に、心からホッとした。“結婚するなら、彼女しかいない”と思ったんです」
5月25日、緊急事態宣言は解除された。その後は、生活も少しずつ元の体(てい)を取り戻っていった。悟と美咲もマスクを着用して、週1ペースのデートを再開するようになっていた。
悟の心は、もう決まっていた。
6月のある日曜日。都内の高層ビルの最上階にある夜景のきれいなレストラン。その店には、カップルのプロポーズをサポートするサービズがあった。悟は事前に用意したバラの花束を店に預けた。 “Will you marry me”とチョコレートで書かれたサプライズのケーキプレートもオーダーしておいた。
会話を弾ませ、夜景を見ながら楽しむコース料理。デザートの段になると悟はトイレに行くふりをして、いったん席を離れた。レストランの照明が暗く落とされ、ロマンチックな音楽とともに、薔薇の花束を抱えた悟とケーキを運ぶ店の人が美咲のもとに近づいていく。そこで食事をしていた人たちが、このサプライズを一斉に見つめている。ケーキプレートが美咲の前におかれると、悟は花束を差し出して言った。
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