認知症の家族を抱える人たちなど、さまざまな人たちの声を聞き吉田さんの胸は熱くなった。
「認知症の人にはそれなりの理屈がありますから、それがわかれば接するのはそれほど難しくない場合が多いです。まず、認知症の人って、同じことを何度も聞きます」
「テレビリモコンどこだっけ?」と聞かれて、「棚の上だよ」と教えてあげても、数分後には「テレビのリモコンどこだっけ?」と同じ調子で聞いてくる。
「何回も言ってるよね!!」と言ってはいけない
その内、聞かれる側にストレスがたまって
「何回も言ってるよね!!」
とつい声を荒らげてしまう。
認知症の家族を介護している人には心当たりがあるかもしれない。
「本人は質問をしたこと自体をさっぱりと忘れています。だから、こちらも何度でも『棚の上だよ』と同じ調子で答えてあげるのがいいんです。あんまり同じことを言うようでしたら、『庭の花きれいだよね』『今日は何を食べたい?』など気をそらしてあげるのがいいと思います。
傷つけないように、否定しないように、気を使って接するのが何よりです。私たち他人よりもむしろ、家族のほうがあけすけに文句を言ってしまい、こじれる場合が多いです。
認知症の人たちって『やりとりしたこと』自体は忘れるんですけど、そのときの『感情』は忘れていないんです。怒鳴られて嫌な気持ちになったという『感情』だけは残ります。それでやりとりは覚えていなくても『この人の顔を見ると嫌な気持ちになる』という状態になってしまう場合があります。親子がそういう状態になってしまったら、とても残念ですよね」
吉田さんが優しい口調で言う
「やりとりは忘れても、そのときの感情は忘れない」
という言葉に、胸を打たれた。
それは家族以上に、認知症の人たちの介護をしてきた、吉田さんだからこそ気づくことができた事実だろう。
「感情は忘れない」
というのは、介護するうえでの煩わしさになるかもしれないが、でもそれ以上に家族にとっての希望になりうるのではないか? とも思った。
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