実は、吉田さんはそれまでにノンフィクションのエッセイ漫画を描いたことはなかった。架空のキャラクターを動かすのと、自分をモデルにしたキャラクターを動かすのでは勝手が違ったのではないだろうか?
「エッセイ漫画は初めてでしたが、自分の身に起きたことを消化して描くので、とてもやりやすかったですね。自分の経験って人に話したくなるじゃないですか? でも実際、知人に話すと反応薄いんですよ。介護って人によっては実感がないですから。でも漫画だと、さまざまな人から意見をもらえます。介護をしている人の悩みはある程度共通していて、私が漫画で描くことでみなさんが共感してくれるのがわかってとてもうれしかったです」
その後、雑誌に介護の漫画を不定期連載して、2冊めの介護本『中年マンガ家ですが介護ヘルパー続けてます』(双葉社)が2018年に発売された。
「介護に関する漫画を描いて久しぶりに『漫画を描くのって楽しい』と思いました。専門誌やウェブなど今まで描いていなかった媒体からの仕事も増えてきました。
今はもう少し漫画を描く時間を作れないかな? と感じています。せっかくですから、介護の漫画のニーズがある限りは漫画家として活動したいな、と思っています」
そして、冒頭で紹介した新刊『消えていく家族の顔』が今年の5月に発売された。
吉田さんは、介護される認知症患者の目線の漫画をどうして描こうと思ったのだろうか?
「介助される側はいつも置いてけぼり」
「認知症の方って言っていることが支離滅裂だったり、極端に口数が少なかったりして言葉のコミュニケーションはあまり取れません。でも家族の方が面会に来たときは普段とは違う“お父さんの顔”になっていたりするのがわかります。職員一人ひとりに対する気持ちも、長く介護をさせてもらっていると伝わってきます。言葉は通じないけど、感情は伝わるんです。そういう部分って、認知症を扱ったメディアではまず紹介されません。介助する側の苦労話しかしないんですね。介助される側はいつも置いてけぼりだなと感じていました」
2019年の1月、吉田さんは
「認知症の人たちは、こういうふうに感じているんじゃないかな?」
という思いを漫画にして、ツイッターでアップしてみた。
「散歩をしていたら急に道がわからなくなり、家に帰れなくなる」
「夜中に見知らぬ部屋で目覚め、出ていこうとしたら知らない人(本当は娘や家族)に怒鳴られ恐怖を感じる」
この2つの漫画を載せたツイートは、実に2万7000リツイートされ、5万3000件のいいねがついた。大変な反響だった。
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