その最たるものが、フリーアナウンサー・田中みな実演じる「姫野礼香」という原作にはないマサの秘書役の登場場面。ネット上での盛り上がりもこの田中みな実が牽引しています。
これはもう、脚本を手がけた人気放送作家・鈴木おさむ氏の狙いどおりの策であることは間違いないでしょう。6月13日に行われた放送再開記念会見で「原作があり、マサとアユの物語という軸は変わらない中で、物語をかき回すエキセントリックなキャラクターを作りたいと思っていて、2人に嫉妬する礼香が生まれました」と語った鈴木おさむ氏の発言がこれを裏付けます。
礼香が嫉妬に狂った最高潮で発し、話題になったセリフ「ゆるさなーーーーーーい」についても「(田中みな実の演技が)僕の想像を100倍超えてきました」と期待していたことを明かしています。つまりこれも、鈴木おさむ氏が台本に記したとする「ゆるさなーーーーーーい」の「伸ばし棒」からしっかり狙いを定めていたことがわかります。
2020年上半期トレンドキーワードに「田中みな実買い」
ドラマ『M 愛すべき人がいて』は、かつて地上波の昼帯に編成されていた「昼ドラ」や「大映ドラマ」と呼ばれる1980年代に大量放出された実写ドラマを彷彿とさせています。アユとマサの成功の過程にある周囲の「いじめ」や「嫉妬」「裏切り」といった憎悪を表現するときの過剰演出が、そう言われるゆえんでもあります。ただし思うに、単純にテイストをまねしたという安直な理由だけでなく、「小ネタ」として積極的に投入していた戦略性すら感じます。
というのも、名作であっても、ストーリー以上に記憶に残るのは時に「小ネタ」だったりします。例えば、『スチュワーデス物語』での「新藤真理子」役の片平なぎさが口で手袋を外して義手を見せるシーンや、『真珠夫人』で浮気夫への嫌がらせに出した料理が「たわしコロッケ」だったことは今でも語り継がれています。
そんな「小ネタ」は使いようによっては、即効薬にもなります。SNS時代はそれがさらに効いてくるのです。「ここはツッコミどころですよ」というわかりやすいサインを送ってくるものだから、つい反応してしまう。これの繰り返しで、盛り上がりを作っていました。また受け止める側によっては「潔くて面白い」とも、「必死さが寒い」ともなり、シンパもアンチも生み出す構造を、小ネタを起点に巧みに作り出すことにも成功させています。
この対立構造にも田中みな実がひと役を買っています。もともと、ネット上では彼女に対してとくに女性からのアンチの声が根強いことは知られた事実ですが、その根拠は曖昧。決定打がないことで、むしろ支持者も集めます。田中みな実使用の美容アイテムをこぞって購入する「田中みな実買い」という現象も生まれ、それが2020年上半期の「@cosme ベストコスメアワード」のトレンドキーワードに選出されたほど。
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