「白人声優の降板」歓迎するアメリカの特殊事情 「黒人のチャンスを奪う時代」はもう終わりだ

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それを最も促進したのは、ジェフリー・カッツェンバーグ率いるドリームワークス・アニメーションだ。彼らはほぼ人気度や知名度だけを最大の基準に声優を決めてきたと言ってもいい。もちろん、気持ちはわかる。大スターが声をやるとあればそれだけで話題になるし、そのスターたちが公開時にレッドカーペットに立ったり、インタビューを受けたりしてくれることで、宣伝になるからだ。

スターにとっても、これは非常においしい仕事。多くの場合、声の録音は数カ月に1回程度のものが何回かあるだけなのに、『シュレック』でキャメロン・ディアスは1000万ドル(およそ10億円)のギャラを手に入れた。

数回の仕事で報酬は1000万ドル(写真:Albert L. Ortega/Getty Images)

リース・ウィザースプーンもパラマウントの『モンスターVSエイリアン』で同額を得たし、トム・ハンクスは『トイ・ストーリー3』で1500万ドルを手にしたと推測されている。

しかし、2016年に大爆発した「#OscarsSoWhite」運動がハリウッドの白人偏重を、2018年が明けるとともに始まった「#TimesUp」運動が女性差別を指摘してから、業界には、映画やテレビにマイノリティや女性の優れたキャラクターをもっと出すようプレッシャーがかけられてきた。その結果、白人がすべての役を独占することは、過去に比べれば少し難しくなってきている。

そんな中、CGアニメの競争激化でドリームワークスは経営破綻。コストを抑えつつヒット作を出すイルミネーションを抱えるユニバーサルの傘下に収まることになった。予算が豊富なこのジャンルで、予算を使わない人たちが勝者になったのである。

「スターの声優起用」は要らない

そして、今回のコロナだ。映画の公開も、制作もストップされ、すぐそこの未来も見えない状態で、スタジオはもはや、大スターに無意味な大金をはたくことはしない。

そもそも、今はレッドカーペットも対面インタビューもないのだから、スターに期待されていた宣伝活動も限られている。第一、観客は本当に「そのスターの声だから」アニメ映画を見に行っていたのだろうか。そうではないと、ちょっと考えてみれば、誰でも気づくはずである。

ハリウッドには、あらゆる年齢、あらゆる人種の、幅広い才能がそろっている。その人たちは、みんなハングリーに次のチャンスを狙っている。仕事の対価をはるかに超える高額なギャラを払わなくても、彼らはきっと素晴らしい仕事をしてくれるはずだ。

だから、顔の見えないアニメの声に、わざわざ有名なスターを選ぶ必要はない。これからは、目をつぶり、声だけを基準にキャスティングをすればいいのだ。ただし、人種差別を増長するようなキャスティングがされないよう、そこだけは目を開いておかなければならない。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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