お金のことばかり長々と説明したが、演奏会中止は、オーケストラ団体にもう1つの大きな影響をもたらしている。音楽の質の問題だ。
音楽の演奏では、その規模にかかわらず、指揮者とオーケストラ、そして奏者間のコンタクト=アンサンブルが非常に大切である。例えば有名なベートーベンの「運命」の出だしはたった4つの音だが、これをぴったりそろえるのは至難の業だ。
指揮者のタクトのどこで音を出すのか、という奏者同士の「あうんの呼吸」があるからこそ、整然と音が並ぶのである。これはほんの一例で、譜面通りに奏でることに留まらず、音に情感を込める、つまり音楽をつくるために、奏者同士のアンサンブルは欠かせない要素である。
これをオーケストラは長年の、リハーサルと本番演奏の繰り返しによって培っている。4カ月に及ぶリハと演奏会の休止が、ダメージを与えないわけがない。
ソーシャルディスタンスをとって演奏する際に影響は?
さらに影響するのが、演奏者間の距離の問題だ。通常のオーケストラ配置での距離は管楽器同士なら1メートル、弦楽器同士なら70〜80cmぐらいだろうか。
感染防止の1〜2メートルの距離、さらにマスク姿では、アンサンブルに必要なアイコンタクト、弓の上下や動作による合図、息づかい、耳に入る音など、多くの面で不利になる。
現在、都内では6月21日に東京フィルハーモニー交響楽団が先陣を切って開催したが、ステージ上ではソーシャルディスタンスをとり、管楽器奏者の周囲にアクリル板を立てての演奏となった。
7月2日にサントリーホールにて開催する新日本フィルハーモニーも、アクリル板こそ取り除いたものの、専門医の立ち会いによる試験演奏等を経て、感染防止のための厳しい基準で臨む。
なお、管楽器は息によって演奏する楽器のため、現在、どの程度まで飛沫やエアロゾルが届くのかといった検証が各オーケストラなどで行われている。7月には、気流の専門家を交えた実験も、クラシック音楽公演運営推進協議会主催、NHK交響楽団等協力のもと行われる。
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