大戸屋がコロワイドの株主提案を撃退した真因 正念場はむしろこれから、業績回復が急務

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1つが、「ファン株主」の存在だ。大戸屋の株主のうち個人株主の持つ議決権は6割程度に上る。これは、5000株未満しか保有していない「浮動株」の比率から読み取れる。外食企業は身近な存在でビジネスを理解しやすいことや、定期的に株主優待として食事券が送られてくることから、個人株主が多い。特に大戸屋は大手企業に比べると売り上げや利益の規模が小さく、機関投資家が非常に少ない。

「現経営陣もコロワイドの手法も、どっちもダメ」

実際、株主総会の質疑応答の時間には「大戸屋の大ファンです」「応援しています。頑張ってください」といった激励のメッセージを送る株主の姿が目立った。シビアに経営状況を見極めて経済合理性を追求する機関投資家と異なり、「伝統の店内調理を守ってほしい」「とにかく今の大戸屋を応援したい」という気持ちで大戸屋側に賛成した個人株主が多かったことが考えられる。

もう1つ、見逃せない勝因が「消去法」だ。優待目的で保有している40代の男性株主は、「大戸屋の現経営陣も、コロワイドの手法も、どっちもダメだ」とバッサリ。コロワイドが19%の議決権しか持たずに経営を支配しようとする姿勢を問題視し、「コロワイドの提案が通ったら、ほかの多くの少数株主が反対するような施策も、コロワイドの都合で通ってしまう懸念がある」と話した。

コロワイドは大戸屋の株式の過半数を取得することなく、取締役会を刷新することで合理化策を推し進めようとした。このコロワイドの強引なやり方への警戒感から、消去法的に「だったら現経営陣に奮起してもらったほうがマシだ」と結論づけた株主も一定数いた。

株主提案が否決されたコロワイドは今後、敵対的TOB(株式公開買い付け)を仕掛ける可能性は十分にある。ただ、実現に向けたハードルは決して低くない。

大戸屋の株価は株主総会翌日の終値で2517円。現在の大戸屋の時価総額は約182億円だ。これに対し、大戸屋の持つ「自己資本」は32.7億円しかない。約150億円の差があり、取得には多額の「のれん代」が発生する。しかも経営権を取得するTOBの場合、株価に3~4割のプレミアムを乗せて買収額を決めるのが一般的で、のれん代はさらに膨らむことになる。

日本の会計基準であればこの「のれん代」を、20年など一定の期間をかけて償却(毎年均等に費用計上)する。しかし大戸屋の業績は低迷しており、直近の2020年3月期(2019年4月~2020年3月)は11.4億円の最終赤字を計上している。大戸屋を買収した後、のれん代を吸収して利益を上げるのは容易ではない。

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