仮にこうした見方が正しければ、従来の働き方が広範囲に見直され、コロナ後の日本の生産性が今後上昇するだろうが、本当だろうか。労働慣行や働き方はより柔軟になり、働き方多様化を助ける在宅やリモート勤務が広がったことは望ましいし、ハンコなどの古い慣行も見直されるべき、と筆者は考えている。ただ、これらのことと、日本全体の労働生産性にはほとんど関係がないだろう。
そもそも、日本の労働生産性が、どの程度アメリカなどと比べて低いかについては、往々にして極端に語られていると筆者は常々考えている。例えば、経済協力開発機構(OECD)は1時間当たり労働生産性を主要各国について算出しているが、2018年時点でアメリカが70.7ドル、日本が45.9ドルであり、データによれば日本の労働生産性はアメリカの7割以下に過ぎない。
「日本の黄金期」も労働生産性は低かったという「事実」
ただ、こうしたドル換算した経済データを単純に各国間で比較するには、注意すべき点がいくつかある。労働生産性の過去の推移を見ると、日本の労働生産性は1970年以降ずっとアメリカを大幅に下回っていた。
例えば、日本の自動車などの多くの製造業が世界のマーケットを席巻し、日本企業の驚異がアメリカで大きな政治問題となっていた1990年代前半時点の、日本の労働生産性はアメリカ対比で約70%だった。現在よりもやや高いが、アメリカ対比で日本の労働生産性が圧倒的に低かったことには変わりない。
こうしたデータの比較は、慎重に行う必要があるのは明らかだろう。尚、当該データで、日本の労働生産性がアメリカよりもずっと低い水準に留まっていることには、ドル換算する際の為替レートが影響している可能性が高いのだが、本稿ではこの点については深追いしない。
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