いずれにしても、過去のデータの推移を踏まえずに、現在の日本の労働生産性が極めて低いと判断するのは、偏った政策提言や将来予想をもたらす。
日本独自の慣行などが低い労働生産性をもたらしているとの思い込みが、日本経済への誤った想像を膨らませる。そして「日本では在宅勤務が普及していなかったから、労働生産性が低かった」のだと、因果関係が確かではない考えにつながっているのかもしれない。
また、日本の伝統的組織しか経験したことがない論者ほど、硬直的とされる日本の組織に問題があるという、自虐的な認識を持つ傾向があるように見える。
そもそも経済全体の労働生産性の問題を、身近な事象だけで議論するのは本質から外れており、建設的な議論とは言い難い。コロナ禍があらわにしたのは、在宅勤務の効果ではなく、一部論者の誤った経済認識なのかもしれない。
米ヤフーやIBMはかなり前に在宅勤務抑制へ転換
実際のところ、在宅やリモート勤務の広がりが、日本全体の労働生産性にどう影響するかを判断するのは難しい。前述したように、多様な働き方をもたらすなど経済活動にとってポジティブな側面はあるが、コミュニケーションケーション不足などの問題から、かえって生産性低下を引き起こす可能性がある。
例えばすでにアメリカではヤフーが2013年に、IBMも2017年に、従来推進していた在宅勤務を抑制する方向に転じた。
それぞれの職種や職場環境など個別要因が大きいため、在宅勤務がどう企業の生産性に作用するかは、それぞれだろう。在宅勤務などの広がりが、日本経済全体の労働生産性にどう影響するかは難しいが、敢えて言えば筆者は労働生産性を低下させる可能性が高いと見ている。技術革新が進んだとしても、オフィスにおける勤務には生産性を高める効果が残るからである。
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