安倍首相に綱渡りの自覚があるか 民意が離れれば火を噴く官邸対与党

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「政治主導」と「官邸主導」は似た言葉で、内容が重なる部分もあるが、違いも大きい。

政治主導は「脱官僚」が狙いで、官僚支配と官僚依存を打破して、政治の側が主導権を握る仕組みや構造の実現を企図する。他方、官邸主導は与党を主たる対象としている。

民主党政権は霞が関の総反撃を食らって政治主導でつまずき、対与党でも民主党分裂を招くなど官邸主導も失敗に終わった。

第1次安倍内閣も、霞が関の離反、未熟な政権運営などで政治主導、官邸主導ともままならなかった。その反省もあって、第2次内閣では脱官僚、政治主導は封印した。その一方で、自民党、公明党、自民党内の派閥、族議員、背後の業界などの圧力をはねのけ、首相官邸の主導権による安倍流政治を目指す。

与党との関係では、集団的自衛権問題が大きな争点だが、アベノミクスとの関連で法人税の実効税率の引き下げ、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉をめぐる日米協議、保険診療と保険外診療を併用する混合診療の拡大の問題などが綱引きの火種となっている。

アベノミクスの成否は、増税実施後、夏以降の景気にかかっているが、安倍政権が目を凝らすのは株価である。法人税率や関税の引き下げ、混合診療拡大などの規制緩和を推進し、海外からの投資など、市場の評価を得る作戦のようだ。

だが、法人税問題では自民党税調、TPPでは農林族と農業団体、混合診療問題では厚労族や医師会が立ちはだかる。

安倍首相の武器は高支持率で、好調経済がエンジンだ。快走を続けるには、官邸主導で与党の圧力に屈しない姿勢を示さなければならない。

いまのところ、与党側は高支持率の安倍首相に手が出しにくい情勢で、要求も抑制的だが、もし民意が安倍離れを起こせば、官邸対与党の綱引きが火を噴く可能性がある。TPP交渉とオバマ大統領訪日、6月にまとめる政府の経済財政運営の基本方針(骨太の方針)、その前の法人税や混合診療の問題への対応が壁となる。

快調の安倍首相だが、綱渡りの政権運営の自覚があるかどうか。

(撮影:尾形文繁)

塩田 潮 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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しおた うしお / Ushio Shiota

1946年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
第1作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師―代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤』『岸信介』『金融崩壊―昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『安倍晋三の力量』『危機の政権』『新版 民主党の研究』『憲法政戦』『権力の握り方』『復活!自民党の謎』『東京は燃えたか―東京オリンピックと黄金の1960年代』『内閣総理大臣の日本経済』など多数。

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