集団的自衛権問題で憲法解釈変更に執念を燃やす安倍首相について、衆議院議員時代に安倍派に所属していた北川正恭・元三重県知事は「このままでは危ない。高転びも」と評した。
自民党の平沢勝栄・政調副会長も「この問題は国民も簡単についてこないから、大変。憲法解釈はいままでと同じだけど、国際情勢が変わったから、自衛権の中に一部、集団的自衛権が含まれるというような部分的な解釈の変更でなければ、国民の反発を買うような気がする」と語る。だが、安倍首相は解釈変更の閣議決定に向かって一直線だ。
自民党内の調整は3月下旬から本格化した。旧三木派の流れの高村副総裁が、1959年の砂川事件の最高裁判決を根拠に、集団的自衛権の限定容認論を説いて落とし所を探っているが、旧大平・宮沢派や旧三木派の系譜の人たちを中心に、強い異論が消えていない。
総裁選、総選挙、参院選と勝ち抜き、高支持率を続ける安倍首相に対して声を上げにくい空気だが、もともとは、悪くいえば「ごった煮」、よくいえば「幅広い国民のニーズを汲み上げる包括政党」だった自民党が、安倍路線の独走に音なしとなったのはなぜか。
中国の軍事的拡張主義、北朝鮮の冒険路線、アメリカの相対的なパワー低下など、安全保障環境の激変も大きい。
一方で、1996年以後の衆議院の選挙制度の変更も無視できない。2000年の小渕元首相の時代までは旧田中・竹下派が党内で圧倒的な勢力を誇っていたが、森元首相以後の5人の首相は、麻生元首相を除く4人が旧福田・安倍派の系譜である。
中選挙区制では、当選至上主義の旧田中・竹下派がパワーを振るっていたが、現行の小選挙区・比例代表並立制では、伝統的に保守路線の理念派・対決型政治家が多かった旧福田・安倍派の流れが幅を利かせ始めた。背景に理念派・対決型のリーダーを待望する「民意の変化」もあるだろう。
だが、もちろん現実派・対話型の政治を望む民意も健在だ。
民主党の衰退による政党政治の機能不全という現状では、自民党は包括政党の伝統を生かして幅広い民意を汲み上げる党でなければ、政権政党として長続きしないだろう。
政権に復帰して1年4ヵ月、政党としてのあり方が問われる場面に差しかかった。
(撮影:尾形文繁)
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