抗議デモで多用「催涙ガス」のコロナ拡散リスク 戦争でさえ使うのは「御法度」なのに
アメリカ全土で行われている抗議デモの鎮圧に当局が使用している催涙ガスは、新型コロナウイルスの拡散リスクを増幅するおそれがある。
催涙ガスの暴露リスクを調べた研究によると、催涙ガスにさらされると涙が出て喉に焼けるような痛みを感じるだけでなく、肺がダメージを受け、呼吸器系の疾患にかかりやすくなる可能性がある。また催涙ガスはせきを誘発するため、感染者がウイルスをまき散らす危険性も高まる。
当局による最近の催涙ガス使用を見て衝撃を受けていると話すのは、催涙ガスの影響を研究してきたデューク大学のスベン・エリック・ヨルト氏だ。「コロナ感染の第2波に火がつくのではないかと大変懸念している」。アメリカのコロナ関連死者数はすでに11万6000人を超える。
軍の研究が示す呼吸器疾患リスク
ミネアポリスでジョージ・フロイドさんが警察に拘束死されたのをきっかけに数千人規模の抗議集会が全米に広がったのを見て、保健専門家は警戒感を募らせている。参加者にはマスクや手袋を着用している者もいるが、デモでは至近距離で大声を出したり、シュプレヒコールを唱えたりする場面も多い。飛沫でウイルスが拡散することを考えれば、リスクの高い行動といえる。
しかし治安部隊が催涙ガスを幅広く使用したことで、不安要素は一段と強まった。
アメリカ陸軍が実施した研究には、数千人もの新兵を対象にCSガスまたは催涙ガスとして知られる一般的な暴動鎮圧剤にさらされた場合の影響を調査したものがある。2012年夏に行われた同研究では、催涙ガスにさらされた新兵は、数日後に急性呼吸器疾患を発症するリスクが大幅に高くなることが判明した。
こうしたリスクは、さらされた催涙ガスの量に応じて高くなることもわかっている。
催涙ガスのひどい初期症状(目や喉を刺すような痛み)は、空気のきれいな場所に移動すれば通常15〜30分後には収まる。ところが陸軍の調査では、多くの疾患が数日後に表れた。研究者らは、これらの疾患は研究室で確認がとられたものではなく、呼吸器系への損傷やその他の要因によって引き起こされた可能性があるため、感染症との関係性は慎重に見極める必要があるとしている。
催涙ガスの長期的な影響を調べたトルコの研究からは、催涙ガスを浴びると慢性気管支炎のリスクが高くなることがわかっている。