抗議デモで多用「催涙ガス」のコロナ拡散リスク 戦争でさえ使うのは「御法度」なのに

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催涙ガスは何十年も前から存在し、暴動鎮圧の手段として世界各地で使われている。最近の香港の抗議運動も、その一例だ。しかし、戦争での使用は国際条約によって禁じられている。

ヨルト氏は、健康で若い新兵を対象とした研究では、高齢者や基礎疾患を持つ人々へのリスクが把握しきれていない可能性があると指摘する。同氏によれば、催涙ガスに関する研究は数十年前に行われたものが多く、全般に研究を増やす必要があるが、研究資金の獲得は容易ではない。

フロイドさんの死がきっかけで広まった抗議運動では、黒人ばかりが不当に警察の暴力の対象とされてきた現実に焦点があてられている。「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)」といった団体も抗議活動で主導的な役割を果たしている。有色人種はコロナ感染でもとりわけ大きな被害を受けており、入院率と死亡率は白人のそれを上回る。

喫煙が上気道に悪影響を与え、肺の感染症にかかるリスクを高める可能性があることは、かなり以前から明らかになっている。アメリカ疾病対策センター(CDC)によれば、ぜんそくや慢性肺疾患などに罹患(りかん)していると、コロナ感染症で重症化するリスクも高くなる。

さらにCDCは、暴動鎮圧剤に長期間さらされると、目のほかに、ぜんそくなど呼吸器系に長期的な問題が生じる可能性があるとしている。

催涙ガスの被害は警察にも広がる

デモ隊を追い払うのに催涙ガスを用いることについては、アメリカ自由人権協会(ACLU)などから批判の声が上がっている。ACLUの人権プログラム責任者、ジャミル・ダクワーは、催涙ガスは過剰に使用されており、かえって現場の混乱を深めるおそれがあると指摘する。「催涙ガスは最後の手段どころか、最初の手段になってしまった」(ダクワー)。

同氏は、州政府と連邦政府によって催涙ガス使用を制限する法整備が進むことを期待している。ACLUは使用の全面禁止までは求めていないが、まずは現場の緊張を和らげる措置を講じる必要がある、というわけだ。

催涙ガスの影響は無差別に広がるため、警察官の健康被害も懸念している、とダクワーは語った。

(執筆:Mike Baker記者)

(C)2020 The New York Times News Services

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