鳩山政権のビジョンなき政策への懸念、企業の日本脱出誘発も
外資系投資銀行の関係者がこんな話を披露した。
「最近、日本の企業から本社機能の海外移転に関する相談案件を受けるケースが少なくない」
全社的な海外移転の模索である。これよりも早く、ある特定の大企業が「社内のフィージビリティスタディの一環として、全面的な海外移転をシミュレーションした」といううわさは、聞いてはいたが確認できずにいた。したがって、外資系投資銀行からの話は寝耳に水というわけではない。しかし、改めて聞くと、やはりショックである。
製造業による生産拠点の一部海外移転は珍しくない。古くは貿易摩擦に端を発した自動車業界による欧米生産にさかのぼる。
1990年代には急激な円高進行やコスト競争力の低下に悲鳴を上げた製造業が、大企業のみならず、中堅企業クラスに至るまで海外に生産拠点を移す動きが拡大。「産業の空洞化」や国内における雇用不安を招くと懸念された。
現在、製造業にとどまらず、サービス産業も、現地法人、現地企業との合弁、現地法人の買収等々、さまざまな形態で海外進出している。営業部門の海外展開も含めて、極めて日常的な企業行動といえる。
その間、かつて懸念されたような産業の空洞化などが現実化せずに済んだのは、海外移転が企業内の部分的な動きにとどまったことに加えて、企業による国際競争力確保の努力と国内経済の拡大があったからだろう。
ところが、最近、丸ごと海外に引っ越すという発想を抱いているという。これは経営上、トップシークレットに属するに違いない。実務的には、労務問題など難問山積のはずだ。したがって、現実化する可能性は乏しいし、企業が「はい、検討しています」と公式の場で回答することによって、現実的な話題として浮上することも考えにくい。
しかし、「荒唐無稽」「机上の空論」と簡単に片付けてよいわけではない。日本の企業群の中で、いわば“ニッポン脱出計画”というような発想が浮遊していることを直視し、背景を真剣に考えるべきである。