総花的な「公的支援給付」が生まれる歴史的背景 コロナ禍に思う「バタフライエフェクト」

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とはいえ、日本型軽減税率が整備されていたとしても、先述した「政策は総花的となり、ゆえに、必要な人には不足しており、そうでない人には棚からぼた餅が配られている側面」は拭いきれない。

この欠陥を取り除くためには、やはり、生存権の保障を担う国、社会保障の政策主体である公共による低所得・低資産から高所得・高資産までの把握が必要となる。とくに今回のような不測の事態の下で困っている人を見極めたいときにはそうである。

ところがこの国では、住民税非課税世帯を超えるどこかの所得水準(または資産水準)で線引きする給付を行う術がなく、毎回毎回、誰が困っているのかわからない中で策を講じなければならないのである。だから、総花的な提案に必ず敗ける。この面で懐かしい話としては、グリーンカードというのもあった。

バタフライエフェクト其の弐「グリーンカード」

1980年に、大平正芳内閣はグリーンカードという制度を作って、国民に納税者番号を割り振り、これによって金融商品の利子・配当に総合課税を行う仕組みを作ろうとした。所得税法の改正も成立して、当初は1984年から導入されることが決まっており、国税庁にグリーンカード処理を行う施設も作られる準備が進められていた。

ところが、銀行や中小企業や政治家あたりから猛反発が起こって、1度成立した制度が、鈴木善幸内閣で延期(1982年)、中曽根康弘内閣の下で廃止(1985年)になってしまったのである。

この話は、当時自民党の有力者だった金丸信氏の「いったん通った法律を潰す方法を教えてくれ」(日本経済新聞)との発言も報道されていたし、この背景を論じた石弘光・一橋大学名誉教授によれば「アングラ・マネーの捕捉を恐れる中小企業主や金融機関の意向を受けた政治家のグリーンカード潰しの活動が目立っていた」とのことらしい。

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