定年後アルコール依存症に陥りやすい人の特徴 「暇だから」「何となく」という飲酒が危険

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「何かせなあかんなとは思てたんですけど、まぁそのとき(定年)になったら何とかなるかなと。結局、酒を飲んでしまったら車にも乗れないし、ずっと家にいることになる」。離婚して子どもを連れて戻ってきた娘は、ずっと家にいてビールばかり飲む父親にいい顔をしなかった。

子どもから「体に良くない」と何度注意されても、下村さんがお酒の量を減らすことはなかった。「たばこが体に悪いという意識はあったんですけど。お酒は頭が痛かったり、喉が痛かったりしても飲んだら治る、良薬というような感覚がありました」。

幻覚をきっかけに娘がアルコール依存症治療の専門病院を予約。なかば強制的に連れていかれ、以来、2週間に1回の通院を続けている。飲まない生活を続けられているのは、飲酒をやめてから体調が改善したことを実感したからだ。家にこもって飲み続けていた頃は、座ったら立ち上がれないくらいに体が弱ってしまっていた。何回も同じことを言っていると指摘されることもあった。

「まさかこんなことになるとは思わなかった。あのまま飲み続けてたら、肝臓つぶしてたと思う。昔の体と違いますからね。仕事もせず、運動もせずにそのまま飲み続けてたら、結局(体が)蝕まれている」。

定年退職後しばらくの記憶がない

小野忠雄さん(75歳・仮名)は、定年退職から4年後にアルコール依存症と診断された。アルミメーカーの営業職として、高校卒業から60歳まで実直に勤め上げ、ようやく自由な時間を手に入れたと思ったら、気付けば病院のベッドの上だったのである。

飲酒が日課となったのは結婚がきっかけだった。27歳で結婚し、晩酌の時間が日々の楽しみとなった。最初は日本酒1合をゆっくり飲んでいたが、徐々に量が増え、一升瓶が2~3日で空くようになった。飲酒量は多いものの仕事に影響を及ぼすことはなく、家庭も問題ないという認識だった。

それが定年後、2年ほどでつねに飲んでいる状態になってしまった。理由を聞くと、その答えは「ひとことで言うと、暇だから」。焼酎の720mL瓶を2日で3本空けるようになり、つねに酔っぱらっているか2日酔いの状態になった。酒は長年、妻が買ってきていたが、量を制限するようになったため、自分で買いに行くようになった。

「病院はおそらく娘が調べて、嫁が予約をとった。しゃーないなと。体がだるかったから、入院させてくれるならいいと思った」。座卓で飲み続け、立とうと思ってもなかなか立ち上がれない状態まで体が弱っていた。

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