定年後アルコール依存症に陥りやすい人の特徴

「暇だから」「何となく」という飲酒が危険

アルコール依存症治療の専門病院を受診し、即入院となったが、それでも本人にアルコール依存症の認識はなかったという。「飲み過ぎているなと思ったことはあったけど、飲みすぎかな? くらい。どうってことはない、アル中とは違うと思ってた」。

定年後しばらくのことはほとんど覚えていない。「つねに酔っぱらっていたから。入院後も2~3週間の記憶はない」。3カ月近い入院期間中、患者本人や家族がそれぞれの体験を語る「院内断酒会」に参加したが、当事者の語りを聞いても自分はアルコール依存症ではないという認識だった。「酒を飲み過ぎたら、あんな風になってしまうんやなっていうくらいの感覚」。そんな小野さんの意識を変えたのは、家族の語りだったという。

「嫁さん連中の話はこたえる。女性は特にオブラートに包まんでしょ。ひどい話を聞くたびに、ひょっとしたら自分も嫁さんや子どもに同じようなことをしてたんかもしれんと思う。酔っぱらって覚えてないだけで」。

現在、妻とは会話も増え、良好な関係を保っているが、子ども達の態度は冷たいと感じている。「言い訳なんですよ。酔っぱらっていたからわからんっていうのは。でも(ひどい行いを)やっているかもわからん。いや、やっていたやろうと思う」。

「仕事の上での付き合いしかしてこなかった」

その後悔から、以降いっさい飲酒はしていない。退院後は、ジムに通ったり、図書館で本を読んだりして過ごすようになった。「友達が少ないわけです。仕事上の付き合いしかしてこなかった。ある意味、寂しい人間やね、定年後に暇を持て余して酒を飲むというのは。自分が可哀そうやなと今は思います」。

今もお酒をやめ続けるために、各地の断酒会が行う「一泊研修会」に年6~7回参加している。そこでもやはり家族の話が心に響く。酒を断って11年になるが、子ども達との失われた関係を修復する糸口は見つかっていない。

アルコール依存症治療を専門とする新生会病院(大阪府和泉市)の院長の和気浩三氏は、定年後はアルコール依存症発症の危険なタイミングであると警鐘を鳴らす。

「定年後には“落とし穴”があります。当院を60~70代で訪れる方は、多くが定年まで問題なく勤め上げてこられた、いわば真面目な方。現役のときには、まさか自分が依存症になるなんて思ってもみなかった方が、早い人では定年から数年でボロボロになってしまう」

和気氏は「アルコールが安価で、かつコンビニ等ですぐに手に入るため、持て余した時間を埋めやすい」と指摘する(写真:筆者撮影)
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