公然と消える「保育士給与」ありえないカラクリ 国も黙認する、都合のいい「弾力運用」の実態

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保育園の財務情報を見ていくと、1~2億円の収入から数千万円もの金額を積み立てや他施設に流用しているケースはザラにある。他に流用することにより、本来その園で必要経費として使用されるべき保育士の給与が低くなり、また、子どものための費用が削られるのでは本末転倒だ。

安倍晋三政権の下でも、小泉政権の頃と同様、経済界が規制緩和を求めた結果、2015年に株式会社の株主配当まで認められた。「委託費の弾力運用は必要だ」とする保育の業界団体の幹部ですら「行き過ぎている」と本音を漏らす。

そして、待機児童解消が目玉政策となって急ピッチで保育園が作られるなか、「波に乗ろう」「ビジネスチャンスだ」といって異業種のからの参入が加速した。「保育への再投資だ」といって施設整備に委託費が流用され、株式会社の右にならえと社会福祉法人も規模拡大していく。

こうした一連の“制度活用”の結果、国が想定する「人件費8割」が大きく崩れた。そして、実際に支出される人件費比率は低くなった

実際の支出を比較してみると…

東京都「保育士等キャリアアップ補助金の賃金改善実績報告書等に係る集計結果」(2017年度)から、実際に支出されている人件費、事業費、管理費(事務費)の比率の平均値を示した。

社会福祉法人の人件費は約7割、事業費と管理費が約1割。一方の株式会社は人件費が約5割、事業費が1割弱、管理費が2割強だった。人件費が抑えられ、給食調理の業務委託や賃料がかさみ管理費が膨らんでいる。

株式会社の人件費比率が低い理由には、新卒採用の割合が高くなり保育士が若いことのほか、土地や建物の賃貸料がかさむこと、社会福祉法人と違って法人税が課せられることなどが挙げられる。株式会社の認可保育の歴史が浅いことも背景にはある。しかし、営利企業が進出するなら、不利な条件は織り込み済みのはず。経営を考え利益を確保するのであれば、人件費を抑えることになるだろう。

東京都は社会福祉法人と株式会社を比較するため、前述の集計結果で、定員数、職員の平均経験年数を同じ条件(定員66~76人まで、職員の平均経験年数5年)にして費目区分の割合を算出している。その数値を見てもやはり、人件費分が土地建物の費用に吸収されてしまっていることが窺える。預ける側、働く側にしてみれば、重要なポイントだ。

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