公然と消える「保育士給与」ありえないカラクリ 国も黙認する、都合のいい「弾力運用」の実態

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コロナに関係なく、人件費はもちろん、折り紙や絵本、玩具を買う費用なども含めて、必要なだけ保育園に「委託費」が支給されているのに、なぜ、こうしたブラック経営が許されるのだろうか。問題の根底にあるのが、冒頭でも触れた「委託費の弾力運用」という制度がある。

まず委託費とは、私立の認可保育園が受け取る運営費のことを指す。国、都道府県、市区町村が負担する税金と、保護者の支払う保育料が原資になっている、いわば公金だ。委託費は、地域、保育園の定員、園児の年齢別で子ども1人当たりの単価である「公定価格」に基づいて計算され、毎月、市区町村を通して保育園に支払われる。

委託費の使途は、「人件費」「事業費」「管理費」の3つ。「人件費」には常勤、非常勤の保育士などの給与、法定福利費、嘱託医、年休代替要員費、研修代替要員費など含まれている。次に「事業費」には、給食費、折り紙や玩具、絵本などの保育材料費、保健衛生費、水道光熱費(保育で使う分)などが含まれる。そして「管理費」には、職員の福利厚生(健康管理や被服費など)、旅費交通費、研修費、事務消耗品、土地建物の賃借料、業務委託費、水道光熱費(事務で使う分)などとなる。

国は「人件費が8割」と積算しているが…

保育に必要な経費が「積み上げ方式」で積算されているため、委託費は「支給された保育園のなかで使い切る性質のものだ」と、国は説明する。

内閣府は委託費の8割が人件費、そして事業費と管理費はそれぞれ約1割程度と積算して支給している。この人件費と事業費と管理費の各費目について、相互に流用していいというのが「委託費の弾力運用」で、国が通知を出して認めている。

委託費の弾力運用を行うには、一定の基準をクリアする必要がある。具体的には、

△職員配置などが遵守されていること
△給与規定があり、適正な給与水準で人件費が適正に運用されていること
△給食が必要な栄養量が確保され嗜好を生かした調理がされている。日常生活に必要な諸経費が適正に確保されていること
△児童の処遇が適切であること

 

などがあり、ほとんどの私立の認可保育園が対象となっている。

認可保育園の運営は公共性が高いことから、もともとは自治体と社会福祉法人にしか設置が認められていなかった。そして委託費には「人件費は人件費に」「事業費は事業費に」「管理費は管理費に」という使途制限があった。

ところが待機児童の増加に伴う「規制緩和」により、この仕組みが変更された

1990年代のバブル崩壊と不況、男女雇用参画の進展により、共働き世帯が増加。山一證券が経営破たんした1997年には専業主婦世帯と共働き世帯が完全に逆転、待機児童が社会的な問題になった。

そして2000年、待機児童解消を狙って営利企業(株式会社や有限会社)やNPО法人、宗教法人にも認可保育園の設置が認められた。

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