公然と消える「保育士給与」ありえないカラクリ

国も黙認する、都合のいい「弾力運用」の実態

国や自治体は多額の税金を投入して保育士の処遇改善を図っているが、本来、保育士が受け取ることのできる給与の金額はいったいいくらなのか。筆者は内閣府の資料を基に、計算した。

国は毎年度、通知で「公定価格」のなかの保育士の”年収”を示しており、2020年度は全国平均で約395万円(法定福利費や交通費、処遇改善費は含まない金額)。そこに、常勤・非常勤を問わず全職員が対象の「処遇改善加算①」がつく。処遇改善①にはキャリアアップの取り組みに応じた「賃金改善要件分」と職員の平均経験年数に応じた「基礎分」の2種類があって、まず「賃金改善要件分」を足すと保育士の年収は約417万円になる。

次に、技能や経験を積んだ保育士につく「処遇改善加算②」は、おおむね経験3年以上の「リーダー」役の保育士は月5000円が、おおむね経験7年以上で「副主任」を任される保育士は月4万円が支給される。それぞれの年収は経験3年以上で約423万円、経験7年以上で約465万円になる。

そこに、もうひとつの「処遇改善加算①基礎分」が個々に平均経験年数に応じて、1%から12%の加算がついていく。1%は約3000円なので、月約3000円から約3万6000円が前述した年収に上乗せされていく。理論上、年収500万円という賃金も国が用意していることになる。

すると、保育士は経験7年以上で、会社員の平均年収の441万円(平均勤続年数12.2年、国税庁「民間給与実態統計調査」)を超える計算になる。さらに都内で働く保育士は、東京都のキャリアアップ補助金が月平均で約4万4000円が出ているため(定員100人の場合)、年収は国の想定より年間で約53万円も多くなる。

国の想定と比較して30~100万も年収が少ない

しかしながら、保育士が実際に手にとる給与は少ない。内閣府「幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査集計結果(速報値)」(2019年度)で約362万円、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」(2019年)で約363万円となる。処遇改善費が反映されているのに、国の想定より約30万~100万円も年収が少なくなっている

委託費がおおむね配置基準の人件費で支払われることから、それより多く保育士を雇っていれば一人当たり賃金が低くなる要因もある。ただ、保育士不足で配置基準ギリギリの現場も少なくない。既に全産業平均を超えるほどの人件費が国から出ているのに、委託費の弾力運用によってバケツの底に穴が空いたような状態だ。コロナ禍の不当な賃金カットも、そもそも保育士の給与水準が不当に低く抑えられている問題の延長線上にあるのだ。

政府は第2次補正予算で、コロナ患者を受け入れた医療機関の職員や、感染が発生した介護施設などの職員に「慰労金」を1人当たり最大で20万円給付することとした。しかし、保育園はコロナの影響を受けることなく委託費が満額支給されることを理由に、対象外になっている。そのため、業界団体は保育園なども慰労金の対象にするよう国に緊急要望し、賛同者は増えている。

もちろん、保育士も危険手当に相当する慰労金が国費で支払われるべきだろう。しかし、全国各地で不当な賃金カットが横行している。東京大学大学院の発達保育実践政策学センターが4月17日から5月1日までに行ったアンケート調査では、常勤職員の約8割は休業しても満額の賃金を得ていたが、フルタイムの非常勤職員は約6割、パート職員は約5割にとどまった。「賃金補償なし」は常勤職員でも7.6%いて、フルタイム非常勤は9.8%、パートタイム職員は15.8%に上った。

そうしたなか、本当に保育士の手に慰労金が渡たるのかという心配も生じる。業界団体が慰労金を要望するのは当然だが、業界団体をはじめ自治体はそれ以前の問題として、事業者がコロナ禍で給与を適切に支払っていたか実態調査し、結果を公表する必要があるのではないか。

国は、一連の問題について行政が監査や指導を徹底するよう改めて文書をまとめており、近く明示される予定だ。

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