新型コロナウイルスのPCR検査をめぐっては、日本でも「検査数が少ない」「検査数を性急に増やすべきではない」とさまざまな議論がされてきた。新型コロナの感染者数はいったん落ち着いたとはいえ、今後の第2波などを想定した場合、今のうちに検査体制を見直すことに越したことはない。
そこで今回は一時期、アメリカに次ぐ新型コロナの死亡件数が世界2番目となったイギリスで、看護師として働く筆者が、イギリスがどのようにしてPCR検査数を大幅に増やしたかと、増やしたことによる「影響」を分析したいと思う。
なぜ検査数が少なかったのか
「月末までには1日当たりの検査件数を10万件に増やす」。4月2日、イギリスの保健当局はこうした声明を出した。当時、イギリスの検査数はヨーロッパのほかの国と比べても圧倒的に少なかった。
その理由はいくつかある。1つは、リソースが効率的に使われていなかったことだ。検査を巨大なラボに中央集約化する計画を掲げたものの、それに必要なスタッフや設備の準備、運搬方法の整備にかなりの時間を要した。その間、各地にあるラボは使用されずに空っぽ状態だった。また検査キットの購入も初動が遅れたために実際に配送されるまで時間がかかった。もちろん検査所も検査をする医療従事者も不足をしていた。
こうした中、感染者の追跡調査についても消極的にならざるをえなくなった。イギリスにおける新型コロナ死亡者数が0だった2月時点では、国中のNHS病院(公的医療機関)では来院理由にかかわらず、すべての患者とその同居家族の渡航歴の聞き取り調査を行っていた。
3月初めまでは、イタリア北部の一部、中国の一部、韓国の一部、イラン全土からの過去2週間以内の渡航歴者は最も感染ハイリスクとされ、特に注意をかけていた。しかし、感染のリスクを認識しておきながら、肝心のPCR検査は行われていなかったのである。
この時点で保健当局は、新型コロナの症状を記述して「これらの症状があれば自宅で自主隔離をするように。検査を受ける必要はない」とする指針を出していた。症状が悪化したときのみ、日本の保健所に当たるNHS111に連絡をとり、そこから必要であれば受診の手配がされるようになった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら