自身もギャンブル依存症だった田中さんも「大勝ちした記憶がない」と当時を振り返る。
「それよりもむしろ、日常にある嫌なことを忘れさせてくれることが、私にとっては大きかった。ちょうど1度目の結婚に失敗し離婚した直後でした。その頃の私は非常勤職員で、先行きがまったく見えず、不安で仕方なかった。そこに入り込んできたのがギャンブルです。ギャンブルをすると、嫌なことがスコーンと頭から飛んで、今に集中できる。それがとても大きな成功体験でした」
ギャンブルが唯一のストレスのはけ口
依存を強める要素の1つとして挙げられるのが、ストレスだ。原田さんによると、「依存症の人に共通するのは、ストレスを感じたときにそれをうまく対処する方法がない点」という。そういう人がギャンブルを始めると、それをストレス解消の唯一の手段としてしまう。
「例えば、自粛要請があったときは、誰でもその多寡はあれどもストレスを感じていました。でも、多くの人は、散歩に行ったり、ペットと遊んだり、家を片付けたりと、自分なりにストレス解消法を実践しながら乗り切っていたはずです。ところが、ギャンブル依存症の人にとってはギャンブル以外にストレスを発散させる手段がない。その結果、今回のような状況下では、よりギャンブルをしたいという衝動が高まってしまうのです」
田中さんが代表理事を務める「考える会」では、自粛要請真っただ中の5月上旬、同会に関わる過去にギャンブル依存症だった人に対してアンケート調査を実施した。
その結果、「もしあなたが回復する前に今のような状況になっていたらどうするか」という問いに対して、約7割が「ギャンブルで不安を払拭していたと思う」と回答。また、パチンコ・パチスロ依存症だった人の6割強が、「都道府県をまたいででも営業しているパチンコ店を探して出かけたと思う」と答えている。
「アンケートは支援がつながっている回復者を対象にしていますが、今まさにギャンブル依存症の問題の渦中にいるご家族は、より一層深刻な状況にあるのではないでしょうか」
と田中さんは推測する。
依存症という残念な過去を「価値」に変える
ここまで読んで「もしかしたら、自分(家族)はギャンブル依存症ではないか」と不安に思った人もいるかもしれない。そこで、ギャンブル依存症のサインを以下に挙げる。
□ ギャンブルに勝ったとき「次のギャンブルに使おう」と考える
□ ギャンブルをしたことを誰かに隠す
□ ギャンブルに負けたときにすぐに取り返したいと思う
これは「考える会」と、国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部部長の松本俊彦医師ら研究者、そしてNTTデータの協同研究で開発した簡易スクリーニングテストだ。1年以内のギャンブル経験で上記のような症状が2つ以上あれば、ギャンブル依存症の可能性が高いという。
「ご自身や家族がギャンブル依存症かもと思ったら、1人で、あるいは家族だけで何とかしようとせず、支援につながることです。お住まいの地域の精神保健福祉センターには相談窓口が開設されていますし、積極的に活動をしている自助グループもあります。依存症治療の外来を持つ精神科病院やメンタルクリニックでは、診断をしてくれます」(田中さん)
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