実際、世界的にはギャンブル依存症は病気の1つとして位置づけられていて、WHO(世界保健機関)が定める「国際疾病分類 第10版(ICD-10)」では「病的賭博」という病名が、アメリカの精神医学会(APA)がつくった「精神疾患の分類と診断の手引き 第5版(DSM-5)」では「ギャンブル障害(gambling disorder)」という病名がついている。
「たとえが適切かわかりませんが、同じ食事をしていても糖尿病になる人もいれば、ならない人もいますし、今でいえば、感染リスクが高い場所に行っても感染症にかかる人もいれば、かからない人もいる。それと同じように、知り合いに誘われてパチンコを始めても、それで終わる人もいれば、そこから依存症になる人もいるのです」(田中さん)
たまに勝つことで執着がよりいっそう強まる
田中さんは、「どんな人でも依存症になりうる」という。だが、体質的になりやすい人もいることがわかっている。
では、依存症になる人の脳内では、どんなことが起こっているのだろうか。筑波大学人間系教授(心理学者)の原田隆之さんがこう解説する。
「まず、ギャンブルで大勝ちしたとしましょう。そのとき、私たちの脳内にある報酬系の回路が刺激されて、ドーパミンという脳内物質が大量に分泌されます。ドーパミンが分泌されると、気持ちが高ぶって楽しい気分になります。すると今度、脳はその行動(ここではギャンブル)と快感の刺激を結び付けて、同じ行動を求めるようになるのです」
勝ち負けがあるギャンブルという特殊性も、その欲求を後押ししてしまうという。
「毎回勝つよりも、勝つか負けるかという状況におかれたほうが勝ったときの快感が大きくなり、ギャンブルに対する執着がよりいっそう強まるのです。そうなると、テレビでパチンコをする人たちの様子が映ったり、パチンコ店のジャラジャラという音を聞いたりしただけで、『パチンコをしたい』という衝動のスイッチが入り、自制がきかなくなります」(原田さん)
その結果、家族より、生活より、仕事より、コロナ禍の状況でいえば「感染する(させる)かもしれない」というリスクより、パチンコを優先してしまう。
そうであれば、ギャンブルで大勝ちした経験がなければ、依存症にならないのか。
「そんなこともありません」と原田さん。そこが依存症の根が深い部分だという。
「実は最近の研究では、勝って報酬を手に入れることによる快感よりも、むしろギャンブルをやっている間、“嫌なことを忘れられた”“気分がスッキリした”といった快感のほうが、依存症の脳をより強固にすることがわかってきたのです」
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