五木寛之「コロナ後は三散の時代がやってくる」 再び注目「大河の一滴」著者が語る今後の生き方

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――家族で逃げるというのではなく、村全体で逃げてしまうんですか?

一般的な逃散は労働力のサボタージュです。しかし、宗教的な逃散は違う。そこがすごいところです。だから内密に何年もかけて逃亡計画を立てる。その間は、子どもも産まないようにする。そうやって周到な用意をして、ある日一夜にしてこつぜんと村全体が他藩に逃げていく。これは逃げられる側からすると、生産力が一気に低下するわけだから大打撃です。

――逃散の受け入れ先はあるんですか?

「難民問題は現代版の逃散ということになるんです」と語る五木さん(撮影:岡本大輔)

計画段階で、藩とずっと交渉しているんです。人手が足りないという藩は、労働力が欲しい。だから来てくれるんだったら念仏を許すと。そういう条件交渉をして、逃散する。

この逃散の現代版が難民なんですね。彼らは祖国にいたままでは暮らしがたちゆかないので、国境を越えて逃散する。あるいは、自国の政治や統治に不満な国民は、国を捨てて逃散する。

その意味では、移民も平和的な逃散なんですよね。島に信号が1つしかないくらいの時代に、マウイ島を訪れたことがありますが、日本人の墓が無数にあるのを見ました。サトウキビ労働者として移民した人が大勢いたのです。彼らも日本での暮らしに行き詰まって、マウイ島に逃散したんです。移民、難民はこれからの大問題でしょうね。

難民問題はより複雑になる

――コロナは、難民問題にどのように影響するんでしょうか。

問題がより複雑になっていくと思います。フランスでもイギリスでも、コロナ感染による死者数が多いのは、中心市街ではなく、その近郊にある移民たちが暮らしている地域に多い。

コロナ以前の先進国は、低賃金な労働力が必要だということで、移民・難民を受け入れてきました。しかしコロナによって経済が縮小し、失業率も高止まりになると、彼らへの風当たりや排外主義は今まで以上に強くなる可能性があります。そうすると、自国から逃散してフランスやイギリスに来た移民・難民がさらにまた逃散を重ねるような状況が出てきてもおかしくありません。

一方で、これまでと同じように、中東やアフリカで生活に行き詰まった人や、政治的な迫害を受けている人は、自国を捨ててどこかへ逃散していくでしょう。さらに今、ブラジルでコロナの被害が非常に大きくなっていますが、今後、南米やアフリカ、インドのように、貧しくて人々が密集して暮らしているような国や地域で、第2波、第3波が猛威を振るうことになるでしょう。

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