自粛警察「市民vs.市民」が泥沼になる必然構図 正義感の暴走でコロナ後は「1億総警察官」に?

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新型コロナウイルスの感染防止策として街角の喫煙コーナーも相次いで使用禁止・立入禁止になった=東京都内(撮影:木野 龍逸)

「喫煙の違反者」を見つけるパトロールでは、当時、区の職員2人程度で街を巡回していた。そのほかに、月に2回、20人規模で禁煙地区を回るパトロールがあった。それを知った斎藤さんは、タバコを吸ったらどうなるかを確かめようとした。

「区の職員と警察官OBと、町内会の人たちが参加するんですね。午後2時にJR神田駅前を回るというので行ってみたら、開始5分前に駅前のドラッグストアから店員が出てきて、店の前に置いてあった商品を全部引っ込めた。どうしたのかと思って聞いたら、『お上が見回りに来るからだ』って言う。本気でおびえてるみたいで、江戸時代かと思いました」

その後、午後2時にタバコを吸い始めたら、「2~3分で取り囲まれた」と斎藤さんは言う。

「緑のジャンパーを着た人たちに囲まれて、『やめろ』って言われたんですが、構わず吸い続けていたら、『罰金5万円だ』って言われました。条例ではそのとおりなので、『払うよ』って言ったりしていたんです。
そうしたら彼らのほうが薄気味悪くなったみたいで、『ここは千代田区だ。あんたがどこから来たか知らないけど、千代田区には千代田区の掟ってもんがあるんだ』って捨て台詞を残して去っていったんですけど……岡っ引きみたいですよね。
緑のジャンパーは町内会の人たちでした。だからこそ怖い。役所の人や警察官は訓練されていますから、職務として粛々と過料を取るのでしょうが、この手の仕事に慣れていない素人は、舞い上がってしまうというか、やたら高揚して、岡っ引き根性が丸出しになる。ちょっとでも権力の切れ端を与えられたり、権威のお墨付きを得たりすると、何でもやる可能性があるんだなと思いました」

行政がリンチを要請するかのような構図

新型コロナの感染拡大防止のため、都道府県間の移動自粛要請が出ていたゴールデンウィーク中、山梨県は20代の女性が感染確認後に高速バスで東京に戻っていた、と発表した。すると、ネット上では女性への批判、中傷が噴出。女性の住所を特定し、さらそうとする動きも出た。

「自粛警察」という言葉がマスコミに数多く登場するようになったのは、この後のことだ。新聞横断検索「Gサーチ」を使って、「自粛警察」をキーワードに朝日、読売、毎日、産経の4紙の記事を検索すると、4月はゼロ件だが、5月には41件がヒットする。

こうした事態が起きた経緯について、斎藤さんは「非常事態宣言の出し方、自粛要請などを見ると、最初から自粛警察が登場することを織り込み済みだったと思う」と批判する。

「そもそもの山梨県の発表では、そんなことをすればこういう人(自粛警察)が出てくるに決まってるじゃないか、と思いました。要するに『リンチにかけなさい』って行政が示唆したということです。
行政と市民が共犯関係にあるとも言えます。行政が自粛をと言っているときに、要請に逆らう人が日本社会でリンチにかけられるのはわかりきっていることだと思います。同調圧力の強さが非常にわかりやすく示されているということです」
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