日銀の量的緩和がもたらす致命的な3つの害悪 もはや「新次元の金融政策」に転換すべき時だ

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第3に、インフレが最終的な目標であるような誤解を与えることだ。金利がターゲットであれば、金利がコントロールできていればよい、ということになる。

一方、金利をターゲットにするのが直接的な目的であるし、手段も持っているということで、何の紛れも誤解も生じない。ところが、国債の買い入れ量をターゲットにすると、それにより金利をコントロールするのであれば、回りくどすぎて、あえてやる必要がないはずで、何か別の目的があるはずだ、ということになる。さらに、デフレ、物価上昇ということを強調しすぎたこととあいまって、国債の買い入れ量をターゲットにして、物価を引き上げるということが最終目標のようなイメージが形成されてしまうことだ。

実際、メディアやエコノミストの議論も、「日銀がインフレを起こせない」ということに異次元緩和の最初の5年は終始してしまった。黒田総裁が2期目になって、ようやく「それは不可能、夢物語、最初から虚構だった・・・」、いずれの解釈をとるにせよ、要は「インフレは起こせないし、起きないし、そしてそれは重要でない」、というコンセンサスが確立した。

「インフレ夢物語」終了後、ただの市場の材料に

そうなると、今度は、量を買い入れる、ということは「物価ではなく、金(カネ)が資産市場へ流れ込むかどうか」ということになり、株式市場の材料にだけされることになった。まったく金融政策として意味がない。無意味なものになってしまったのである。

これと関連して、株式とJ-REITの買い入れも、資産市場のリスクを増やすだけのもので、金融政策としては誤りである。日銀の説明としては、リスクプレミアムに働きかけるということだが、目的が物価にせよ、需要喚起にせよ、リスクプレミアムに働きかけても、実体経済は動かない。

なぜなら、実体経済におけるリスクプレミアムが低下すれば、リスクの高い設備投資、新しい事業への参入が起きるという因果関係が成立しなければ、株式市場のリスクプレミアムの縮小が金融政策として意味のあるものにはなりえない。実際、株式を日銀が購入することで、直接的に株価が上昇するきっかけをつくることにはなったが、これが実体経済にどのように影響したかは、議論が分かれるところである。

まず、個人投資家のキャピタルゲイン、あるいは株式含み益による資産効果で、個人消費が増えるというルートがある。しかし、これは将来株価が下落してしまえば、逆資産効果が働くことになるため、効果としてはニュートラルである。日銀の買い入れにより株価を押し上げるのであれば、永遠に買い続ける必要があり、それは不可能である。

次に、企業の投資が積極的になるという効果がある。ただし、アメリカの研究でもわかっていることだが、株価上昇に対して、実物の設備投資を増やすのは、もともと株価と設備投資が従来から連動していた企業に限られる。あるいは、株式で実物投資のための資金調達を主に行っている企業に限られる。しかし、このような企業は日本においては極めて少ない。ほとんどが銀行借り入れか社債または自己資金である。

唯一、効果が認められるのは、企業買収M&Aである。株価が高くなると、株式交換での企業買収が容易になるので、より積極的になる。これは実際に影響があったように見受けられる。ただし、「日本市場だけではジリ貧」というムードにより、海外企業の買収にあせって参入した企業も多く見られたので、一長一短とも言える。

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