2020年1~3月の米州の売上総利益は前年比1.2%増だったが、マークルに関しては「1ケタ台後半の伸びだった」(電通グループの曽我有信CFO〈最高財務責任者〉)という。電通は、「CRM」(顧客関係管理)と呼ぶ、こうしたデータマーケティングを全世界に拡大しようとしている。
ただ、マークルの買収時には対価の一部を業績に応じて後払いする「アーンアウト」と呼ぶ手法を用いており、電通グループがマークルの経営陣などに対して支払う年数十億円単位の株式報酬が発生する。さらに4月には、CRM事業を加速させるため、当初2021年以降としていたマークルの完全子会社化を前倒しで実施(従来は66%出資)。それだけ同社に対する投資もかさんでいる。
デジタル化で収益源を多様化
国内の成長戦略としても、データを活用したデジタルマーケティングを中心に据える。
「テレビ広告が縮小する中、収益構造をどう変えていくのか」。5月27日の決算説明会の場で証券アナリストからこのように問われた電通ジャパンネットワークの五十嵐氏は、「ここ数年、収益源の多様化を進めている。象徴的なのはデジタルソリューションの領域だ」と応じた。
デジタルソリューションとは、法人向けシステム構築を手掛ける電通国際情報サービス(ISID)やネット広告の電通デジタルを中心とした事業だ。
ネット広告の制作や運用だけでなく、顧客のマーケティングの課題解決のためにデジタル活用法を提案するコンサルティングから、マーケティング施策としてのアプリ開発やシステム構築まで、一気通貫でデジタル化を手掛ける案件を増やそうというわけだ。「これは博報堂にはできないことだ」(電通グループ幹部)。
とはいえ、デジタルソリューションの売上構成比は国内で17%とまだ小さい。「テレビを重視する文化はいまだに根強い」(電通社員)という声も聞かれる中で、社員のスキルや意識改革をどこまで進められるかがカギとなる。
5月20日には株式時価総額でネット広告大手のサイバーエージェント(6713億円)が電通グループ(6670億円)を逆転した。リストラを終えた矢先のコロナ禍と五輪延期に見舞われる中、「広告の巨人」の底力が試されている。
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