「子ども手当」論争から日本の病巣が見える--リチャード・カッツ
これらの問題の解決策は、農家に所得補償を与える一方、自由な価格競争を認めて食糧価格を引き下げ、農地売却を自由化することにより、小規模農家を大規模で効率的な農家に吸収させることである。農業に限らず、セメント企業と建設会社も反競争的な慣行によって高い価格を請求することができたし、超低金利により“ゾンビ”企業も救われた。
こうした事態に終止符を打つために、反成長的な慣行を社会的なセーフティネットと所得配分政策に置き換える必要がある。言い換えれば、そうした政策は国民全体を対象にし、必要な資金は税金で調達しなければならない。だが、反競争的な制度と慣行が何十年にもわたって維持された結果、国民は改革に対して敵意と不信感を抱くようになっているのである。
過去20年で急減した日本の子育て世帯
もう一つの障害は、社会的な連帯感の喪失である。今日まで、自民党と癒着した利益集団を中心に社会的給付が行われてきたため、国民の間にある“運命共同体”意識が崩れてしまった。人々は自分の所属する集団に対しては忠誠心を感じるが、他の集団に対する“信頼と連帯感”は低下してしまった。
人々が見知らぬ人をどれだけ支援し、慈善事業に寄付をしているかに関するOECD(経済協力開発機構)の調査では、日本は対象28カ国のうち最下位に近かった。不幸な人を支援するために自発的に時間を使っている人の割合でも中位にとどまっている。
日本の社会的連帯感の欠如が、子ども手当が大きな支持を得られない理由の一つである。読売新聞が昨年10月に行った調査では、子ども手当の支持率は同年9月の60%から57%に低下している。
島根県立大学の高橋睦子教授は、世代間の連帯感の喪失は社会的な連帯感の喪失の一つの側面であるとして、以下のように語っている。