現代に子どもを育てる親たちはワガママ? 子育て阻む「言論」の壁
何が子どものためなのか、決めるのは誰ですか?
金融機関で働く女性(39)は、夫が海外に単身赴任となってもう4年になる。長女が5歳の時、インフルエンザにかかった。仕事の納期日のため午後は出社しなければならず、名古屋から親戚が到着するまでの数時間、一人で留守番させた。心細くなった長女が何度も鳴らす携帯電話に出る暇もなく、トイレに駆け込んでかけ直した。
「ごめんね、ごめんね」
この4月に長女が小学校に入学すると、さらに預け先に困ることになった。
学童保育は午後6時半までで、保育園の延長保育よりも1時間短い。30分でも延長してもらえないかと区に申し入れたが、
「子どもの生活リズムを考えると、区が対応するのは難しい。塾に行かせたらどうでしょう」
との答えだった。
「子どもに対して誰よりも後ろめたく思っているのは母親です。それでも帰れないという現実があるから、より安全な預け先を確保したいのに、締め出された子どもに何かあったら非難されるのも母親。何が本当に子どものためになるのか。それを決めるのは誰なんでしょうか」
街はバリアフリー化が進み、子連れにやさしい店も増えた。ベビーカーは機能的になり、便利な育児用品が開発された。でも、それらを使って子育てを「ラク」にすることを許さない風潮は、まだ確実に残っている。子どものために母親は犠牲になるのが当たり前。親の都合を優先するのは子どもがかわいそう、という考え方だ。
日本小児科医会は、子育てでスマホを利用することを控えるよう呼びかけている。昨年12月から小児科の待合室などにこんなポスターを掲示している。
「ムズがる赤ちゃんに、子育てアプリの画面で応えることは、赤ちゃんの育ちをゆがめる可能性があります」
具体的にどのように発育に影響があるのかの情報はなく、親たちの混乱を招いている。
昨年7月に長男を出産した会社員女性(34)には、ITが欠かせない。難産の後に意識がはっきりすると、たちまち不安になり、スマホに手を伸ばした。
「おっぱいって産後何日目から出るんだろう?」
病室のベッドの上で検索。初めての育児は、スマホの先に広がる情報に頼ることから始まった。
生後2カ月になると、夜も全然寝ようとしない長男の世話で体力的にも精神的にも限界に達した。IT企業に勤める夫(34)が、泣き声を感知したら携帯にメールが着信するアプリを開発。1階の寝室で長男を寝かせて2階のリビングで一息つけるようになった。メールは夫の携帯にも同時に届き、「今日はあまり寝なかったね」などと気遣ってくれるようにもなった。