夏以降にコロナ「ワクチン」の成否は見えてくる 専門家会議キーマン・西浦教授が描く展望

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――結核予防のBCGワクチンの接種の有無が、新型コロナの感染状況に影響を与えているという説もあります。日本を含め、BCGワクチン接種国での感染状況は相対的に軽いと指摘されています。

それについては、医学的には比較対象となるアウトカム(予後)によっていろんな結果が乱立すると考えられている。最近のイスラエルの研究論文は、BCGワクチン接種の有無によってPCR検査のコロナ陽性率に有意な違いはないという結論だったが、実際にはアウトカムはほかにもある。それが感染リスクではなくて、2次感染者がどれだけ増えやすいのかといったものであれば、まだ関連性はありうると思っている。

BCGはコロナ感染の軽減に関係か

具体的には、BCGワクチン接種の有無によって感染者の増殖スピードや致死率が違う可能性があり、いまわれわれの研究チームの若手がその実証研究を進めている。イタリアやスペインで感染が深刻化し、一方で中国ではあれだけ対策がうまくいったのは、制度などの違いだけでない理由が必ずあると思う。可能な限りの検討を行っておく必要がある。

――日本は、欧米に比べると超過死亡数が抑えられている一方で、4月以降、ICU(集中治療室)の稼働が逼迫しました。

日本の場合は、ICUに入る基準が少し低めであり、そこで手厚くケアして自然治癒を目指している。新型コロナウイルスだけに作用する特異的治療法はまだないので、対症療法とならざるをえないが、それでも治っていく人はいる。

こうした医療への負荷が対応可能な程度の範囲で何とか感染者数が抑えられているのが成功要因だろう。アメリカ・ニューヨークなど海外ではICUが対応できないほど感染者が急増してしまった。

――重症化するメカニズムが解明されたり、それに対する治療法や治療薬が確立されたりすれば、新型コロナの問題も軽減できると言われています。2009年の新型インフルエンザのときも治療で対応できる流れができて、問題が沈静化したとされます。治療は大きいファクターになりませんか。

治療は、2次感染や流行そのものの予防という観点からすると、そんなに大きいファクターになるとは考えていない。

新型インフルエンザのときは、確かに抗インフルエンザウイルス薬「タミフル(一般名:オセルタミビル)」が早期治療で効いた。しかし、発病からしばらく経った人にも効いているかというと、少し怪しい。それによって重症化リスクが十分に下がっているかを考えると、結構心もとない状況だった。

新型インフルエンザのときは、要するに運がよかった。わかりやすく言うと、H1N1と言われる2009年の新型インフルエンザは、季節性のインフルエンザを含めても最も弱毒タイプの1つだった。流行が始まってから、私も研究に参加したが、当初から致死率がどれくらいかでもめた。当初新型インフルエンザの致死率は高く推定されていたが、時間が経つにつれて主観的にはとてもマイルドであることがわかった。

そのため、みんなが普通のインフルエンザとして受けて立とうと戦略を変えた。人口全体に対するインパクトも非常に小さかったため、新型インフルエンザの問題は立ち消えになった。

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