世界で戦える企業・人材になる修行法とは? 森本作也×瀧本哲史 対談(後編)

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――だから映画を買うこともある。

森本:だけど何がエンターテインメントかは、それこそローカルによって違う。だからローカルとコアの間を行ったり来たりが自由にできるのが理想的なグローバル企業だとすれば、それは日本的なグローバル企業かもしれないですね。というのもP&Gとかインテルとか、いわゆるグローバル企業と言われている会社は、同じテンプレートを世界中に当てはめても通用している気がする。でも日本的なグローバル企業は、日本のやり方を「はい」と差し出しても、「いらないよ」と言われかねない。

瀧本:アメリカという国自体、そもそも普遍国家みたいなところがあります。中学の頃にアメリカのマーケティングの教科書を読んだら、必ず、セグメンテーションという概念が必ず出てくる。かつての日本はわりと均一的で、テレビでドカッと宣伝すれば売れたから、僕はそんなにたくさんセグメントがあるとは意識できなかった。

でもアメリカでは本当にセグメントが違うんですね。州によっても違うし、人種、職業で全然違う。今は日本でもどんどんそうなってきていますが。その中でどうやったら普遍的になるかを考えないと、アメリカの大企業は成り立たなかった。さまざまな人が集まった中で無理やりつくった普遍性だから、ある意味すごく純度が高くて、落とし込みやすいのかもしれませんね。

森本:なるほどね、最初から最大公約数化ができている。

瀧本:そう、日本の場合は日本人的なところを特化して育てたほうが成功するから、むしろ押し付けづらいと思います。

森本:なるほど。アメリカの家電の説明書って、こんなに分厚くて、すごく細かいことまで書いてあるでしょう。有名な話では、「電子レンジに猫を入れてはいけません」とか。あれはいろんなリテラシーの人がいるから、どんな人にも対応できるようにしているんですよね。最近はアップルのおかげで、説明書がなくてもどんなリテラシーの人でも使えるところまで進化している。人種とか言語とか知的レベルとか、全然、関係なく、誰でもiPhoneは使える。これがたぶんアメリカの理想的な形なんだと思います。そういうものじゃないと、少なくとも全米的にはヒットしない。

東大の卒業生向けニュースレターに書いたメッセージ

――これからは企業がグローバルに変わるのがいちばん大事ですが、個人としてもショック療法が必要ですか。

瀧本:僕はそう思いますね。第1期のグローバル企業と言われている会社が、条件が整っている中で出ていったかというと、全然そうではなく、もうとりあえず行くしかないから行ってみようという感じだったわけだし。日本電産だって国内でまったく売れなくて、相手にされないので、やむをえずアメリカに行ってみたら3Mが買ってくれた、という感じじゃないですか。社長の永森重信さんがもともとグローバル人材で、苦もなくグローバル化したわけじゃない。たぶんもう「突撃」に近かったはずです。本当に追い詰められたら、たぶんゲームの成り行きが違ってくると思います。

森本:僕はできるだけ若いときに、コンフォートゾーンを出た環境に身を置いて、自分がマイノリティであることを経験してみることだと思いますね。そうすれば絶対にそこからなんとかしようとするんですよ。

僕の初めての海外経験は、野外キャンプでした。そこにポンと押し込まれて3カ月間、イギリス人とキャンプをした。そのときの「追い詰められた感」が、確かに自分の壁を下げました。それ以来、リスクを取ったり恥をかいたりするのが怖くなくなった。そういう経験を、できれば若いときにしておくほうがいいと思います。

瀧本:僕も東大が卒業生向けに出しているニュースレター(機関誌)にこう書いたことがあります。アメリカに留学するなんてことは、どうせみんな1度はやるから、そんなことは意味がない。それよりまるまる1学期、マイナーな国に放り込んだほうがいいと。

森本:そこで一定期間過ごして人間関係をつくったとか、社会に溶け込んだということのほうが、はるかに財産になるかもしれませんね。

(構成:長山清子、撮影:尾形文繁)

瀧本 哲史 エンジェル投資家

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たきもと てつふみ

京都大学客員准教授、エンジェル投資家。東京大学法学部を卒業後、東京大学大学院法学政治学研究科助手を経て、マッキンゼーに入社。3年で独立し、日本交通の経営再建などを手がける。その後、エンジェル投資家として活動しながら、京都大学では「交渉論」「意思決定論」「起業論」の授業を担当し人気講義に。「ディベート甲子園」を主催する全国教室ディベート連盟事務局。著著に『僕は君たちに武器を配りたい』『武器としての決断思考』『武器としての交渉思考』がある。

【2019年8月16日18時00分編集部追記】2019年8月10日、瀧本哲史さんは逝去されました。ご逝去の報に接し、心から哀悼の意を捧げます。

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