中小企業が国の「資金繰り」に不満を募らす訳 質も規模もリーマンショック時とは異なる

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――政府系金融機関に加え、5月から民間の金融機関も無利子無担保の融資を開始しました。

無利子無担保で融資を受けられるのはとてもありがたいことだが、3000万円という上限額は中堅企業にとっては過小だ。日本政策金融公庫や商工中金の上限額はおよそ1億円。上限額を固定せず、柔軟な運用をお願いしたい。

政府では、日本政策投資銀行など政府系金融機関が劣後ローンや議決権を持たない優先株を使って資本支援をする案が検討されている。政府系金融機関だけでなく、地方の中小企業のメインバンクである地方銀行や信用組合、信用金庫でも同様の資本注入策が打てるように検討してほしい。

地元にお金が回る発注を

――全国中小企業団体中央会では「官公需適格組合等の随意契約特別枠の創設」を政府に求めています。

官公需適格組合とは、官公需を受注し、履行できるだけの財政・技術基盤が整っていると中小企業庁が証明した組合のことだ。中小企業が官公需を受注できるよう官公需法で定められた措置で、官公需適格組合は地方の公共機関が発注する工事や物品販売を共同で受注することができる。

中小企業、小規模事業者が地方の雇用を支えている現実を踏まえ、政府は毎年、官公需適格組合ができるだけ多く受注できるよう求める閣議決定を行っているが、要請どまりで、現実には東京や大阪に本社をかまえる大企業が受注して地元にお金が落ちないケースが目立つ。

コロナショックで中小企業は雇用を守りたくても守り切れない局面に差しかかっており、官公需適格組合に随意契約の特別枠を設けてもらえないか、というのが要請の趣旨だ。そうすれば、地元にお金が落ち、雇用が守られ、自治体への納税額も増える。地方の経済活性化策に直結するはずだ。

――聞こえはいいですが、随意契約は自治体と業者の間に癒着を招いたり、利権の温床になる懸念はありませんか。

地方の公共事業すべてを随契にしてほしいとお願いしているわけではない。仮に100億円の事業予算ならば、そのうちの30%、30億円分は地元の企業が受注できるようにしてほしいという趣旨だ。

公平性や透明性の観点から公開入札であるべきという理屈は重々承知している。もし癒着や不正が発覚したら断固とした処罰が下されるのは当然として、このままでは地方の中小企業はバタバタと倒れていくのが目に見えている。

日本にある企業の99.7%は中小企業。優れた技術や人材がコロナショックで失われないためにも、政府には、一歩踏み込んだ判断をしてほしい。

野中 大樹 東洋経済 記者

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のなか だいき / Daiki Nonaka

熊本県生まれ。週刊誌記者を経て2018年に東洋経済新報社入社。週刊東洋経済編集部。

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