中小企業が国の「資金繰り」に不満を募らす訳 質も規模もリーマンショック時とは異なる

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――政府は、3カ月間で前年より3割以上減収となった事業者を対象に、半年間、家賃の3分の2を国が助成する仕組みを検討しています。上限額は中小企業が月50万円、個人事業主が同25万円になる見通しですが、どう評価しますか。

賃料負担に苦しむ中小事業者はあまたあり、支援策がまとまりつつあることは評価したい。ただ、上限額が中小企業で50万円、それも半年間限定という設計では、資金繰りに苦しんでいる中小事業者の先行き不安は消えないだろう。支援策を早くスタートさせてほしいが、現実に即して柔軟に制度を見直していってほしい。

また、一概に「賃料」といっても契約形態は一つではない。契約に賃料と書いていなくても、「運営委託費」といった名称で固定費的な支出になっているケースもある。

土地と建物を借りてコンビニエンスストアを経営している事業主は、フランチャイズ契約を結ぶコンビニ本部に決まった額のロイヤリティを払うとともに、土地建物の賃借料を地主に払っている。こういったビジネスをしている事業者を支える支援策があるのか、わからない。

支給要件の早期見直しを

――前年同月比で50%以上減収した事業者に支払われる持続化給付金(法人は最大200万円、個人事業主は同100万円)はどう評価しますか。国会では「50%以上減収」という条件が厳しすぎるという声も上がっています。

持続化給付金は申請しやすく、助かっているという声が多い。苦しいところからお金が回っていくのが望ましいので、50%以上減収した事業者にスピーディに支給されることが最優先だと思う。

森 洋(もり・ひろし)/全国中小企業団体中央会会長 1942年生まれ、早稲田大学法学部卒業。全国石油商業組合連合会や全国石油業共済協同組合連合会の会長も兼任。(記者撮影)

だが、飲食業者の中には少しでも減収分を補おうとテイクアウトやデリバリーを始めたところも多い。その中には努力の結果、減収が45%に抑えられた、という事業主もいる。減収を抑えようと努力した結果、持続化給付金の支給対象から漏れてしまっては本末転倒だ。減収50%以上という支給条件は早急に見直してもらいたい。

――雇用調整助成金はどうでしょうか。

上限額(8330円)を1万5000円に引き上げたことはよかったと思うが、申請数や支給額が小さいことからも読み取れるように、この制度は複雑で使い勝手がよくない。国会などでは「申請しない悪質な事業主が多い」といったニュアンスで語られている印象を受ける。中には従業員に支給する気がない悪質な事業主もいるのだろうが、多くの中小企業経営者は「申請しようにも手続きが煩雑すぎる」と悲鳴を上げているのが実情だ。

従業員20人以下の事業者については手続きが簡素化され、お金をかけて社会保険労務士など専門家に頼らなくてもよくなった。従業員20人以上の中小企業についても同様の簡素化を検討してほしい。

また、現行制度では申請から支給まで2カ月以上もかかり、給付も「後払い」が原則だ。手元資金が少ない飲食事業者、中小企業にとって1~2カ月の遅れは命取り。「先払い」もしくは「中間払い」のような制度設計はできないものか。

手続きのワンストップ化も検討してほしい。持続化給付金、雇用調整助成金、各自治体の協力金、賃料支援策など支援策がたくさんあるのはありがたいことだが、地方の経営者からは「制度ごとに申請窓口が違うのはわかりづらい」という声が多く寄せられている。都会の若い経営者には想像しづらいかもしれないが、地方の経営者は高齢化が進んでいてインターネットを使いこなせない「オンライン難民」がいることも理解してほしい。

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