グラフに示されているとおり(ここでは数学的リテラシーの分析結果のみ掲載しているが、他の科目でも同様の結果が得られている※)、日本ならびに韓国は、マレーシアやインドネシアなどを結ぶ回帰直線(黄色のグループ)と、シンガポールや台湾などを結ぶ回帰直線(緑色のグループ)の交点に位置する。ここには、今なお発展途上にあるASEAN諸国のラインと、知識集約型産業中心の東アジア先進諸国(および地域)のラインが、明確に分かれて示されている。
(※より系統だった議論は Ito, K. Ishikawa M. and Kitagawa T., Education Loss and Financial Damage concerned by the pandemic Correlation Analysis based on OECD-PISA score data base and a brief introduction to STREAMMなどを参照のこと)
私たちの研究グループでは、ポスト・コロナ期の成長を期待される東アジア先進諸国のラインを「成長のベルトコンベアー」、また、コロナ不況によって地滑り的に発生しうる経済リスクの予測経路として、ASEAN諸国のラインを「ASEANの滑り台」と呼んでいる。
このグラフは、学校再開もままならず、遠隔教育もままならず、教育格差の拡大する日本の未来を暗示するものともいえる。現状で学習機会を十分に得られた層は、学力上位層を形成して、少なくとも現状にとどまるか、あるいは、東アジア先進諸国のライン(緑)にそってGDPの増大に寄与することだろう。一方、学習機会を十分に得られなかった層は、学力下位層を形成して、ASEAN諸国のライン(黄)にそってGDPの減少を招いてしまう可能性がある。
そして、日本全体の「学力」を考えた場合、日本は「成長のベルトコンベアー」を上昇するのか。はたまた「ASEANの滑り台」を下降するのか。これまでの議論を踏まえて考えると、現状では後者の可能性が高いかもしれない。また、同じく2つの回帰直線の交点に位置する韓国は、どのような推移をたどるのであろうか?
日本はどうなってしまうのか~未来への処方箋
どうすれば「ASEANの滑り台」から逃れられるのだろうか?
ここで、経済効率性という観点のみから、日本の教育を根本から見直す議論をしてみたい。もちろん、これは極論である。
現状、すでに生じている問題は、回復に複数年かかるという、国家規模の学習の遅れ。そして、学校、家庭、本人の資質・能力の違いに起因する教育格差の拡大である。
ここで、同一年齢が同一内容を学ぶ制度(年齢主義)と、所定の授業時数をこなせば、修得の有無にかかわらず卒業できる制度(履修主義)を見直してはどうか、という議論が可能である。格差が拡大する状況では、年齢主義は非効率的だし、修得できずに卒業・進学する層が増大すれば、さらなる学力低下を招くことになるからだ。
例えば、シンガポールでは、就学可能年齢は0歳であり(制度上は0歳でも小学校に入学できる)、義務教育修了テストでは不合格もありうる。
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