トヨタ、コロナ禍の「利益8割減」に透ける覚悟 研究開発と設備投資は前期並み水準を維持

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自動車業界はコロナショック以前から「100年に1度の大変革期」にある。「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電気自動車)」と呼ばれる次世代技術が台頭し、アメリカのIT大手グーグルなど異業種からの参入も相次ぐ。自動車産業の競争軸がサービス領域にシフトすると、車を開発・製造し、販売するという従来のビジネスモデルでは十分な収益を上げられなくなる。

トヨタが2021年初頭に静岡県で着工するコネクテッド・シティ「ウーブン・シティ(Woven City)」の完成予想図(画像:トヨタ自動車)

将来への強い危機感から、豊田社長は2019年1月に「自動車メーカーからモビリティカンパニーに変革する」と宣言。2020年1月には、静岡県裾野市の工場跡地にコネクテッド・シティを建設して、大規模な自動運転の実証実験を行う構想を発表するなど、CASE対応には心血を注いでいる。

コロナショックで投資を抑制すれば、将来の競争力に直結しかねないとの懸念がトヨタには強い。豊田社長の「番頭」を自任するCRO(最高リスク管理責任者)の小林耕士執行役員は「未来に対する開発費や設備投資は止めてはいけない。そのための資金を持つべき」と強調する。

トヨタの手元資金(総資金量)は8.7兆円と、リーマンショック時の倍以上だ。財務基盤は堅牢と言えるが、小林執行役員は「アップルの手元資金20兆円と比べればまだ少ない」と謙虚だ。グーグルを傘下に持つアメリカのアルファベットの研究開発費は年間2兆円規模でトヨタの2倍に上る。圧倒的な資金力を有するIT企業とのCASE競争は熾烈であり、世界販売台数で2位のトヨタといえども必死だ。

非接触型の社会が加速する

決算発表の場ではコロナを契機に社会にどんな変化が起きるのかという質問も飛び出した。豊田社長は「非接触型の社会が加速するのではないか。よりパーソナルモビリティのニーズがより高まり、モビリティカンパニーへの変革が現実味を帯びてきている」と述べた。

コロナショックに直面した企業の最新動向を東洋経済記者がリポート。上の画像をクリックすると特集一覧にジャンプします

今回感染症のリスクが急浮上したことで、他人と車両を共有するシェアリングの普及には逆風が吹いていることを念頭に入れた発言だ。利用者が急減しているアメリカのライドシェア大手、ウーバー・テクノロジーズは大規模な人員削減に踏み切っており、コロナ収束後には業界の景色がまったく変わっている可能性もある。

2020年6月で社長就任12年目に入る豊田社長。ここ数年は折に触れて「何が正解かは分からない。とにかくやってみながら考えることが重要だ」との持論を口にしてきた。逆境をチャンスにできるか。今こそ攻めの姿勢が問われている。

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年10月から東洋経済編集部でニュースや特集の編集を担当。

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