国家存亡の危機が生んだ究極のリーダー育成術 イスラエル「タルピオット・プログラム」の質

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政治に限らず、産業界でもリーダーシップを発揮している人材は他国に比較して日本には少ないような気がする。リーダーシップとは地位や権力ではなく「責任」である。クオモ知事や、鈴木、吉村知事のように、ビジョンを示し、その実現のために課題を解消するための具体的な行動を自ら取ることだ。

このようなリーダーシップは、どのように育成されるのだろうか?

企業によっては、若いうちにある程度の職位で製造や販売の現場を経験させるようなOJTで人材を育てるプログラムを持つところもある。一方教育では、小学校から大学に至るまで、行われているのは一方通行の「講義を聞く授業」が大半であり、生徒は答えのある問題を解くテストの結果で評価される。

だが、ここで述べたいイスラエルの教育やアメリカの教育では大きく異なる。生徒が自分の意見を発表し、質問し、ディスカッションする双方向の内容に重きが置かれている。他者と議論をするためには、課題を把握し、自身の考えを持ち、他者の主張も理解したうえで、論理を組み立ててゆかねばならない。

また、アメリカの大学では、チューターがクラスに参加し、誰がどのような発言をしたか、メモをとることもある。授業は教師の話を聞くことではなく、皆が作り上げるものであり、そこに参加しなければクラスにいる意味がない。

そして、成績にはレポートの評価だけではなく、“Class Participation”という評価項目もある。リーダーシップとは、受け身ではなく、能動的に何かを作り上げるこういった訓練の中で育まれるという考え方である。

トップ50名のエリートを3年間で育てる

イスラエルには18歳年齢の優秀な若者を多面的に評価し、そのトップ50名に3年間のエリート教育を施すタルピオットというプログラムがある。このプログラムは1979年に始まったが、きっかけは1974年第4次中東戦争の初戦で、イスラエルがエジプトとシリアの攻撃に大敗したことだった。

周囲を敵対するアラブ諸国に囲まれ、人口も圧倒的に少ないイスラエルが、巨大なアラブ諸国と戦うとき、狭い国土と少ない人口という「量」では圧倒的に劣るため、彼らはその弱点をテクノロジーという「質」で補う戦略をとった。すなわち、エリート技術者を育て、彼らに安全保障のための技術開発を委ねたのである。

その狙いは見事に当たった。タルピオット・プログラム研修生は、3年間の研修を終えた後に6年間軍事技術の研究開発に従事するが、多くの成果を上げている(具体的内容は守秘され公開はされない)。

さらに、その経験を踏まえて、その後大学で教鞭(べん)を取る者、培った技術を元にしてベンチャー企業を起業する者が次々に現れた。国の安全保障のために導入した技術エリート育成プログラムが、安全保障だけではなく、技術開発の基盤を強化し、結果としてベンチャー企業を生み、海外からの投資を集め、国家の経済成長につながった。

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