立ち会い・里帰り「不可」に直面する妊婦の苦悩 コロナの影響で母親学級も中止に不安募る

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「妊婦検診で通っていたところは、産科機能のないクリニック。そこと提携しているのは大学病院で、出産費用も高額だったため、自力で探すことにしました。でも、探し出してびっくりしたのが、どこも出産費用が60万円以上かかることでした」

地方に比べ、首都圏の出産費用は高額だ。出産育児一時金が42万円出るとはいえ、当初里帰り出産を予定していた人にしてみると、多額の追加費用がかかることになる。

それでも動かねばと電話をかけ始めた矢先、姉から「母子ともに健康だから助産院という選択肢もあるよ」とアドバイスをもらった。すぐに電話して事情を話したところ、「大変だったね、うちは大丈夫だよ」と快諾。晴れて出産場所が決まった。

といっても、当初予定していた家族のサポートはない。実母は仕事で長期休暇は取れず、しかも関東に呼び寄せて感染でもしたら元も子もない。お母さんは「何もしてあげられなくて、ごめん」と電話の向こうで泣いていた。

目の離せない年頃の長男の世話もあるため、夫は現在、育休の取得に向け交渉中。しかし、夫の会社は、今まで男性の育休取得者が1人もいないため、どうなるかは未知数だ。車で1時間の距離に住む義母に、予定日ごろから来てもらうことを依頼した。

東京産婦人科医会では対策も

前田さんは、里帰り分娩を断念した後、自宅近所で産院を見つけることができたが、東京都内などでは、人気産院は8週目までに受診しないと分娩予約ができないところも少なくない。

「緊急事態宣言を受け、帰省分娩を断念した多数の妊婦さんたちが複数の産科医療機関に断られ困っている」ことから、東京産婦人科医会では、分娩受け入れの緊急アンケートを実施。2020年5月11日現在、都内137施設が受け入れに手を挙げた。

「これは、各医療機関の厚意や協力によるもの。東京でのお産難民を出さないために、各地域単位で周産期センターを中心に分娩施設間で受け入れ調整を行っている。新型コロナウイルスの蔓延で妊婦さんたちは不安な毎日を送っていると思うが、何か心配なことがあれば、妊婦検診を受けているかかりつけ産婦人科医に相談してほしい」(同医会)と言う。

また、「分娩施設では院内感染予防に全力で取り組んでいるが、分娩施設を新型コロナウイルスから守るためにも、かかりつけ産婦人科医が認めた妊婦さんのPCR検査がスムーズに行える体制整備が必要。帰省分娩を断念した妊婦さんにとって、産後の育児の手助けがないことを鑑みれば、帰省分娩を推奨するためにも、帰省前にPCR検査を実施してほしい」と、検査面での妊婦への対応の整備を訴える。

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