アフターコロナで注目したい世界の「日本化」 「民間部門の消費・投資意欲の減退」が広がる

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すでに各国当局は未曽有の財政出動を行うことについて積極姿勢を示しており、全世界でその額は8兆ドル(IMF)にものぼるとされている。ISバランスに照らせば、民間部門で消滅した消費・投資を8兆ドルでどれほど埋められるかが問われている局面である。リーマンショック後を超える規模の財政出動を果たして民間部門の貯蓄だけで賄いきれるのかという論点が注目される。

それは賄いきれないとの見方をするなら、金利上昇懸念とリンクしてくるわけだが、昨今の中央銀行の動きを見ると、「金利が上がれば買うだけ」であろう。それゆえ金利上昇が持続し、それが実体経済を脅かす展開となる可能性は低いと思われる。

通貨の信認が強すぎて債務超過になった例も

とはいえ、そのような展開は中央銀行が金利上昇を防ぐべく、日本全体の「身代わり地蔵」になっただけでもある。日本が抱える巨額の外貨準備は過去に行われた円売り・ドル買い介入の結果であり、この意味で円高の「身代わり地蔵」だった。同様に今後は世界で膨らむ中銀のバランスシートが金利上昇の「身代わり地蔵」という風潮が強まっていくのだろうか。

その場合、「中銀バランスシートの健全性」と「通貨の信認」もアフターコロナではテーマになるかもしれない。ただし、筆者は「バランスシートの健全性」と「通貨の信認」は基本的にさほど強くつながっていないと考える立場だ。自国通貨高を止めるために多額の為替差損を被り、債務超過の疑いが強まったスイス国立銀行(SNB)の例もある。1970年代にはドイツ連邦銀行(ブンデスバンク)もマルク高によって外貨準備が減少し債務超過に陥っている。

「通貨の信認」が強すぎて債務超過に陥った例がある以上、中銀が多額の国債を買ったからといってそれが「バランスシートの健全性」を損ねる話になるとはかぎらないし、損ねたからといって「通貨の信認」が毀損し、当該通貨の下落を想起させるともかぎらない。

しかし、為替市場は直情的で移り気であり、フェアバリューがないともいわれる。その時々のテーマが流れを作るという認識は持っておいたほうがよい。「理論的に正しい」ことが「実務的に正しい」ことになるかどうかはわからない。

その際、おそらく最もターゲットになりやすいのは経済規模対比で中銀バランスシートが膨張している国の通貨だろう。主要国で唯一GDPを超える規模を誇る日銀および日本円は槍玉に上がりやすいかもしれない。この点を日本の為替市場参加者は念頭に置きたい。

ちなみに「通貨の信認」問題はそのまま「アフターコロナはインフレか、デフレか」という論点にも及ぶだろう。この点はまた機会を改めて議論したい。

※本記事は個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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