志村けんが「最高傑作」で挑戦した2つの掟破り 「だいじょうぶだぁ」が今見ても飽きない訳

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世間でこの番組について語られるときには、「変なおじさん」や「ひとみばあさん」など、志村さんがコントの中で演じた個性的なキャラクターのことが取り上げられることが多い。だが、この番組の面白さはそこだけではない。

その手のキャラクター中心のコントだけではなく、「ウンジャラゲ」「パイのパイのパイ体操」などの歌ネタもあれば、同じシチュエーションでオチを変えて何度も短いネタを重ねていくこともあった。

個人的には、志村さんといしのが仲のいい夫婦役を演じるコントが好きだった。寝室で眠りにつく前の夫役の志村さんがとぼけた雰囲気の妻役のいしのにひたすら振り回される。夫に明日は5時起きだと聞かされた妻が「ご、ご、5時!?」と大げさに驚いたり、2人が仲直りのために「醤油、ラー油、アイラブユー」といった小気味よいやり取りをするところなどは何度見ても面白かった。

志村けんのコントが風化しない理由

『だいじょうぶだぁ』のコントが古くならないのは、そこに「生活感」があるからだ。志村さん自身も突拍子もない発想を考えたりするのは苦手だと語っている。

彼はコントの中で酔っ払いなどの人物を演じるときには、その人がどういう性格なのか、なぜ酔っ払ってしまったのか、などの背景を考えてから演技に臨むという。身近な題材からアイデアを膨らませて笑いを作っていくからこそ、志村さんのコントの魅力は風化せず、いつまでも面白く見られるものになっているのだろう。

『だいじょうぶだぁ』と同時期には同じフジテレビで『とんねるずのみなさんのおかげです』『邦ちゃんのやまだかつてないテレビ』『ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!』などのコント番組が乱立していた。志村さんは後輩芸人の台頭を横目で見ながら、真っ向勝負でこだわりのコントを作ってきた。

志村さんはデビューしてから亡くなる間際まで、約半世紀にわたってほぼ休むことなくコント番組を続けてきた。『だいじょうぶだぁ』はそんな彼の最高傑作の1つだ。新型コロナウイルスの影響で自宅待機を余儀なくされている人々にとって、これほどの娯楽はないと思う。「だいじょうぶだぁ」と優しく笑って国民を勇気づけてくれる志村さんの勇姿を、この機会にじっくり味わってもらいたい。

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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