スマホ関連メーカーが「原価マスク」販売のワケ 中国での生産キャパ拡大と欧米での需要急増

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トリニティはスマートフォンケースや前面保護ガラスなどのアクセサリーを企画・販売する会社だが、中でも前面保護ガラスのシェアは日本市場でトップシェアを誇る。こうした製品の生産はクリーンルーム内で行われる。このため、操業停止に追い込まれていた提携工場が、どこもかしこもマスクを作り始めたのだという。

当初は日本でのマスク不足が深刻化する中、提携工場側がトリニティに「応援」という形で無償提供してくれたのが始まり。しかし、無料でもらうだけでは申し訳ないと2万枚を購入し、そのうち1万枚を埼玉県新座市、5000枚をNPO法人の介護施設に寄付。残りの5000枚は社員及び経営するレストランの顧客に配布した。

ここまではよくある話だが、寄付を申し出て話をしてみると、介護スタッフのマスク不足が実に深刻なことがわかった。通常ならば、介護する高齢者ごとにマスクを交換するルールであるところ、1日を1枚でしのぎつつ、それでも不足していることを知った。

このNPO法人のスタッフは100人。1日に平均3人の介護につけば300枚、5人なら500枚が必要となる。ところが医療現場には支援の目も行きやすいが、介護の現場にはなかなかマスクの寄付も集まらない。数千枚を寄付したところで、地元の施設ですら満足にニーズを満たせない。

世の中を見渡すと、少しでも安価なマスクが出回ると、買い占めて転売する人が出てくる。こうした行為をなんとかして止めたい。そこで持続的に、可能な限り安価にマスクを供給する手段として考えたのが、それまで付き合いのあった提携工場にマスクを生産してもらい、それを原価で提供することだったが、単に安価に提供するだけであれば、転売する者も出てきかねない。そこで原価をパッケージに記載することで、転売を防止する事が可能になると考え“原価マスク”という商標とパッケージデザインを思いついたという。

マスク価格高騰の背景とは?

中国政府が自国の防疫対策のために整えたマスクの生産体制だが、中国国内のマスク生産が十分な数になってくると、生産工場は当然ながら海外輸出に目を向け始めた。このため余剰生産分のほとんどは、そもそもマスク文化がなく流通量が少なかった欧米へと大量に輸出されるようになっていったという。

トリニティが販売する「原価マスク」(写真:トリニティ)

こうした事情で生産されているマスクであるため、どの工場も3層構造と3ミクロンの粒子を捕集できる割合を示すBFE(細菌濾過効率)が99%の不織布が用いられている。トリニティの原価マスクも医療用マスクと同等の性能を指定しているとのことだが、医療用品とするには認可が必要になるため、あえて「医療向けではない」とアナウンスしている。

「最初の2万枚を買ったときの原価は、およそ70円だったんです。このコストで継続的に寄付をし続けることはできません。ではどうすれば、世の中のためになるだろうか。そこがスタート地点です」(星川氏)

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