【産業天気図・パルプ・紙】増益続出は原燃料価格下落の“神風”、実態は中国動向など不安要素多く「曇り」

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予想天気
  09年10月~10年3月    10年4月~9月

製紙業界は2010年9月まで終始「曇り」が続く。晴れているのに雨が降る奇妙な天候を「狐の嫁入り」と言うが、今の製紙業界はこれに似ている。主要各社の多くが2ケタ増益、中には最高益接近の企業もあるのだから「晴れ」と言い切るべきなのだろう。だが、現実の天気は晴れというにはほど遠く、いつ雨が降ってもおかしくないような曇り空が広がっているのだ。

まずは大手各社の今期経常利益の予想増益率を羅列してみる。王子製紙<3861>92%、日本製紙グループ<3893>80%、レンゴー<3941>84%、大王製紙<3880>17%。このいったいどこが「曇り」なのかと頭をひねりたくなるだろう。だが実は、各社の利益を押し上げているは、古紙価格やパルプ、石炭、重油など過去5年間苦しめられてきた原燃料価格が低下したためなのだ。その低下効果たるや業界最大手の王子製紙の場合で年間で586億円と試算されている。一方、今期の営業利益予想は500億円。実質はなんと営業赤字なのである。

この“神風”を別とすれば、紙パルプ業界を取り巻く環境は極めて悪い。国内の紙・板紙需要は2006年の3195万tから3年連続で減少する見込み。せめて価格だけは維持しようと「絶対に値下げするなと号令をかけているが、じわじわと下がってきているのが現実だ」と各社幹部は投げやり気味につぶやく。この需要減は果たしてリーマンショック後の世界同時不況による一時的なショックなのか、それとも各企業でコピー用紙を裏表で使うのが当たり前になるなど恒久的な変化なのか、足元では定かでないのが不気味だ。

しかも折悪しく07~09年にかけて業界で4台の最新マシンが稼働入りした。各社は稼働率を上げ、生産ロスを抑えるのに必死。北越紀州製紙<3865>などは新型機の能力35万tのうち約4割に当たる15万tについては、「1円でも限界利益が出れば輸出に振り向ける」として、一定の稼働率を死守する構えを見せる。

ここ数年で原油など燃料価格に左右されない生産体制の整備が進んだとはいえ、08年に米国と逆転し世界最大の消費国となった中国の動きによってはいつ“神風”が吹き止まないとも限らない。とりわけパルプが絶対的に不足する中国では古紙需要は増えることがあっても減ることはないとされる。事実、足元で古紙の輸出価格や原油価格がじわじわと上昇し始めていることに各社は神経を尖らせている。
(山本 隆行)

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