49歳、「文字起こし」に鉱脈得た彼女の快活人生 事務、編集、ライター、留学…流転の末に掴んだ

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そんなある日、ある出版社の部長に呼び出された。

「女性の障害者向けのフリーペーパーを作っている。ボランティアで入ってくれないか?」

と言われた。

「それまでは、障害のある人と関わったことはありませんでした。ただスペインに行ったときに、障害者がごくごく普通に街を歩いていたことに衝撃を受けて、いろいろ思うところがありました。そして何かを始めれば、次に繋がるだろうと思いました」

仕事は相変わらずヒマだったので、フリーペーパーに向けて熱心に企画を出し、編集を請け負った。

その頃、

『8時間インタビュー取材をして、2週間後に1冊の本にしろ』

という、かなりタイトな書籍のゴーストライターの仕事が回ってきた。

「8時間のインタビューなんて、文字起こしするだけで2週間かかってしまいます。そんな愚痴を言っていたら、フリーペーパーの編集者が

『視覚障害者の女性で文字起こしをしている子がいるから、彼女に頼んだら?』

と紹介してくれました。さっそく頼んでみると、安くて、早くて、誤字もない、とても完成度の高い文字起こしが送られて来たんです」

文字起こしをしてくれた女性と話をすると、

「もっと仕事が欲しいです」

と言われた。

和久井さんは当時、ゲーム系のサイトで記事を書いていた。声優さんのインタビューの企画などで、文字起こしが必要な仕事を紹介した。

それでも、まだ仕事がしたいというので、知り合いの編集者を紹介した。そこからはコンスタントに仕事がくるようになった。

「ブラインドライター」が話題に

「彼女を紹介してくれた方が『ブラインドライター』という名前をつけてくれました。『視覚に障害があるけど、聴覚を活かしてブラインドライターとしてがんばっています』という旨の公式サイトを作ると、それがSNSでめっちゃ跳ねました」

そこからはサイトを見た人など、外部からの仕事も入るようになった。

ブラインドライターが1人ではとても間に合わない量になり、新たに3人の視覚障害者が入った。

それまでは和久井さんが校正をやっていたのだが、和久井さんもライターとしての仕事が忙しくなってきたため、車いすユーザーの女性をメンバーに入れた。

「最初は私が個人の仕事として受けていたんですが、収入はあっという間に1000万円を超えてしまいました。それで、2019年の春に会社を作り法人化しました。今は、この会社から給料をもらう形になっていますね」

障害者ワークは数あれど、実際に独立して生活できるほど稼げているジャンルはあまりないのが現実だ。だがその中では、文字起こしの仕事はまだ稼ぐことができる。視力障害の引け目を感じず、長所を活かして働くことができる仕事だと思う。

「トゥーマッチなくらいやる気に溢れたスタッフばかりで、いつも刺激をもらっています」

合同会社ブラインドライターズの仕事は、文字起こしが中心だが、その他、当事者にしかできない仕事も引き受けている。

「小説の中に登場する視覚障害者の表現がおかしくないか監修してほしい」

という依頼だったり、

「映画の主人公が盲目で文字起こしの仕事をしているから参考のために取材させてほしい」

というような依頼だ。

これからはこうした監修の仕事を増やしていきたいと考える。

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